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出力電流が従来比10倍のリチウム空気電池を開発――小型ドローンのホバリングに要する出力レベルを達成 NIMSと成蹊大学

物質・材料研究機構(NIMS)は2025年3月11日、成蹊大学との共同研究チームが、出力電流が従来比10倍のリチウム空気電池を開発したと発表した。

リチウム空気電池は、空気中の酸素とリチウムを用いて充放電する二次電池だ。リチウムイオン電池と比較してエネルギー密度を約5~10倍に向上できるため、電池の大容量化、軽量化に資する蓄電技術として期待されている。

特に、リチウムイオン電池をバッテリーに用いた小型ドローンは、一度の充電で飛行できる時間が10〜20分程度と短いため、数時間程度飛行可能なドローンの開発に向けてリチウム空気電池の活用が有望視されている。

一方で、リチウム空気電池は電池反応が遅く、微弱な出力電流しか得られないことが課題となっていた。ドローンはホバリングに多くの電力を消費するため、バッテリーには高い出力特性が求められる。

共同研究チームは今回、カーボン電極における電池反応を追跡した。放電後のカーボン電極(正極)の酸素の分布を確認したところ、電極の内部に酸素がほぼ取り込まれておらず、反応が進んでいないことが判明した。既存のカーボン電極は、カーボン粒⼦同士が密に充填されていることが、酸素ガス吸収の効率性の妨げとなっていた。

そこで、電極を高空隙化すべくカーボンナノチューブを採用した。カーボンナノチューブの太さや⻑さ、成膜方法、分散を調節し、空隙率90%のカーボン電極を開発している。導電性や自立性にも優れており、高い効率での酸素ガス吸収や放電反応が可能となった。

(左)リチウム空気電池の構造
(右)カーボン電極

加えて、酸素の拡散性を高めるべく、粘度の低いアミド溶媒をベースに電解液を設計し、セルの内部抵抗を抑制した。同発表によると、従来比で出力電流が1桁以上向上したという。

リチウム空気電池セルの内部抵抗成分と電解液による放電特性の違い

さらに、開発したカーボン電極と電解液を用いて、リチウム空気電池を試作した。今回開発した電解液は揮発性が強いため、カーボン電極の上に薄いガス拡散層を形成し、ガス拡散層の断⾯⽅向から酸素ガスを交換する電池構造を採⽤している。

試作したリチウム空気電池の放充電サイクル試験を実施したところ、エネルギー密度が既存のリチウム空気電池と同程度の500Wh/kg以下でありながら、出⼒密度が500W/kg以下にまで向上した。同発表によると、従来の10倍程度の出力密度だという。

ドローンのホバリングに求められる出力密度は最小で400〜500W/kg程度であるため、今回開発した電池はホバリングに要する電力を出力できることとなる。

(左)開発したリチウム空気電池の構造
(右)電池エネルギー密度と出⼒密度の関係

同研究チームは今後、リチウム空気電池セルのスケールアップに取り組み、小型ドローンに加えてマイクロロボットの電源としても使用可能な、大容量かつ軽量のバッテリー開発を図る。

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