ものづくりは自己表現。仕事も趣味もサプライズを与えたい——ローランド ディー.ジー. 冠者徹也氏

ローランド ディー.ジー.は、業務用インクジェットプリンタやプリント&カット機、カッティングマシンを中心とするデジタルプリンティング事業と、3次元切削加工機や歯科用ミリングマシン、メタルプリンタ、デジタル彫刻機を中心とする3D事業を展開する。

30年の歴史を持つ3次元切削加工機の開発に携わるDGSHAPE製品開発部の冠者徹也さんは、1人でロボットを作ってしまうほどものづくりが大好き。作り手とユーザーという両方の視点で製品を進化させているエンジニアだ。(執筆:杉本恭子 撮影:水戸秀一)

簡単・コンパクトな最新3次元切削加工機を開発

――DGSHAPE製品開発部に所属しておられますが、どのような製品を開発しているのですか。

製造業の設計・開発部門や生産現場にて試作品や治具などを製作する切削加工機のほか、切削の技術を生かして、歯の詰め物や被せ物などの補綴物を削る歯科用ミリングマシンも開発しています。

私の担当はソフトウェアです。直近では2016年10月から販売を開始した3次元切削加工機の新製品「MODELA MDX-50」(以下、MDX-50)の開発に携わってきました。この製品もコンパクトサイズで簡単操作を特長とする製品です。

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――MDX-50には、どういう特長があるのですか。

最大6本の刃物を自動で交換するオートツールチェンジャー(ATC)を搭載しました。

材料を0~360°の範囲で自動回転させる回転軸ユニット(オプション)も装着でき、荒削りから仕上げまでフルオート加工が可能で手間も時間も大幅に削減できます。

本体内部にメモリを搭載しているので、データの転送が完了したら加工中でもコンピュータを取り外すことができます。本体前面のパネルに加工の残り時間を表示してくれるので、1度セットすれば加工が終了するまで任せられます。

アイデアを製品開発に生かせて楽しい

作り手であると同時にユーザーでもある。だからユーザーの気持ちがよく分かる

作り手であると同時にユーザーでもある。だからユーザーの気持ちがよく分かる

――冠者さんは2010年入社だそうですが、これまでどのような仕事を担当してきましたか。

入社して初めての仕事は、勉強も兼ねてモーターやセンサといった基本的なデバイスの制御などでした。最初に携わった製品は大型のインクジェットプリンタで、インクの使用量を記録する履歴の機能などを開発しました。それ以降は、ずっと3次元切削加工機を担当し、組み込みソフトも、ユーザーインターフェースも広く担当させていただいています。

MDX-50のプロジェクトに加わる前は、歯科用ミリングマシンの開発を行っていました。歯科用の場合、切削加工機を使った加工に慣れていないお客様も多いので、難しい調整や原点合わせを行わなくても済むよう、ATCや回転軸の自動補正といった機能が標準で搭載されています。

その便利さを3次元切削加工機にも持ち込むことで、MDX-50では操作性と作業効率を向上させました。

――他製品の技術も活用しながら、ブラッシュアップしていくのですね。

はい。当社では、技術者が流動的にいろいろなプロジェクトに携わることが多く、相乗効果が生まれているのだと思います。

また仕様を決める段階からテストまで、多くの工程に関わることができるので、自分のアイデアを製品に生かすことができエンジニアにとってやりがいのある仕事です。

手段のためなら目的を選ばない「Yara:Makers(やらめいかー)」

Yara:Makersでは、メンバー個々が好きなものを製作。作品は展示会に出展している

Yara:Makersでは、メンバー個々が好きなものを製作。作品は展示会に出展している

――冠者さんには、Yara:Makers(やらめいかー)の部長という顔もあると聞いています。その「Yara:Makers」とは。

2年ほど前から活動を開始した会社の公式部活動です。浜松の方言には、「やってみようじゃないか」というチャレンジ精神の込められた「やらまいか」という言葉があり、そこから連想して名付けました。

以前は、ロボットを作るサークル活動をしていましたが、メイカー・ムーブメントといった個人のものづくりが盛り上がっていたこともあり、ロボットに限らずいろいろなものづくりをしたいと考えて立ち上げた部活動です。コンセプトは「手段のためなら目的を選ばない」。メンバーそれぞれが作りたいものを作って、展示会などにも出展しています。

ものづくりが好きでも、1人だとどうしてもモチベーションが続かなくなります。仲間と共有したり、自分が分からないことを教えてもらったり、逆に興味はあっても作ったことがない人に教えたり……。そうやって活動を広げていきたいなと考えています。

――最近は、どのようなものを作りましたか。

12月の展示会に出展するために、自分で転がるサイコロを作りました。見た目は普通のサイコロですが、好きな目が出るように制御できるものです。

最近生まれた娘のために、MDX-50を使って娘の名前の印鑑も作りました。「できたてのMDX-50を使って何か作りたいな」と考えていたので、ちょうどいい機会だと思って。もう少し大きくなったら、おままごとセットも自作したいと思っています。

自分の結婚式でもものづくりを披露!

「Yara:Makers」は、車を運転中に思いついた名前。「いい名前を思いつくと俄然やる気が出る」

「Yara:Makers」は、車を運転中に思いついた名前。「いい名前を思いつくと俄然やる気が出る」

――今まで作ったもののなかで、特にお気に入りなのは。

自分の結婚式のために作った行灯です。各テーブルに行灯を置いて、新郎である私が魔法の杖を振ると、行灯が一斉に光るというものです。それぞれのテーブルの人たちを紹介するときには、1つずつ光らせました。

結婚式では、新郎新婦の手作りのウェルカムボードなどを見掛けますが、私も自分の結婚式では何かしたいと思っていました。私のことをよく知っている会社の同僚や、大学時代の仲間は「冠者なら何かするはず」と期待してくれていたようで、行灯パフォーマンスにすごく盛り上がってくれました。一方で、文系の妻の友人はポカンとしていておもしろかったですね。

――本当にものづくりが好きなのですね。仕事と趣味とでは、やはり気持ちが違いますか。

そうですね。仕事の場合は使う人が欲しいものを作ることになりますが、趣味は自分が作りたいもの、欲しいものを作れますし、多少冒険もできます。

仕事では、当然品質や納期などが大事になりますが、ものづくりという意味では仕事も楽しんでいます。

メカ・エレキ・ソフトのスキルを身につけたことが仕事でも役立っている

結婚式で新郎自らが披露した行灯と魔法の杖

結婚式で新郎自らが披露した行灯と魔法の杖

――子どものころから作ることが好きだったのですか。

小さいころはレゴが好きで、キットの説明書どおりに1度作ったら、また分解して別のものを作って遊んでいましたね。

小学生の時にはミニ四駆にはまっていました。パーツを組み合わせたり、工具をそろえて加工したりして、自分で作ったものが走って、結果も変わる。当時はただ楽しかっただけだと思いますが、今思えばこれがものづくりの始まりだったと思います。

中学生から高校生のころには、レゴのプログラミングロボット教材を使って、作ったり制御したりするのが楽しかったですね。

――大学では、工学部工学創成プログラム専攻、大学院では社会工学を専攻されていますね。

大学に入学した時は情報工学科だったのですが、工学創成プログラムに専攻を変えました。いろいろな学科の好きな授業を取れるという特別な学科で、情報工学や、社会工学、経営工学などを学びました。

私は数学が好きだったので、単にソフトウェアを作るだけでなく、社会で起きている現象を数理モデルにして問題解決することに興味があり、大学院では社会工学を選びました。

――大学時代はロボコンのサークルに入っていたそうですね。

はい。学科ではソフト的なことを学んでいたので、サークルでは別のことをやろうと思って、メカ系を担当していました。おかげで、1人でロボット1台作るのに必要なメカとエレキとソフトのスキルを一通り身につけることができたと思います。それは会社に入ってからも役立っています。

ひらめいたときの快感がものづくりへの原動力

冠者さんにとって、ものづくりは自己表現であり、おもてなしでもある。見る人、使う人にうれしいサプライズを届けたい

冠者さんにとって、ものづくりは自己表現であり、おもてなしでもある。見る人、使う人にうれしいサプライズを届けたい

――冠者さんにとって、仕事に対するモチベーションはどこにあるのでしょう。

会社に入る時は、好きなものづくりを仕事にできることが楽しみだったのですが、最近は逆に仕事で身につけた技術を趣味にも生かせることが、すごくうれしいです。自分で本を買って勉強したりもしていますが、仕事だけでなく趣味のものづくりにも役立つことなので、私の場合は一石二鳥ですね。

アイデアを出したり、問題に対する解決法を考えたりすることが好きで、それはものづくりにも数学にも共通するのだと思います。「これだ!」とひらめいたときの快感がいいですね。

――これからどんなものづくりをしたいですか。

いい意味でユーザーの期待を裏切るような、「そうきたか!」と思われるようなものを作りたいと思っています。

3次元切削加工機についても、刃物の種類や、CAMの設定など、まだまだユーザーが確認しなければならない部分が残っています。1人のユーザーとしても、そういう手間や失敗のきっかけなどを自動化によってなくせたらいいなと思います。

趣味でも、周囲をアッと言わせるようなものを作っていきたいですね。

関連リンク

ローランド ディー.ジー.
Yara Makers(やらめいかー)

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