ロモノーソフ・モスクワ国立総合大学の研究チームがフタロニトリル・モノマーを活用し、高分子系複合材料のマトリックスに使える斬新な高分子材料を開発した。開発した材料は優れた耐熱性とともに、チタンやアルミ合金などの金属よりも高い強度を持つので、高温で使用される航空機部品の重量を大幅に削減するのに役立つ。研究成果は、1月6日に「Applied Polymer Science」誌に公開されている。
航空宇宙産業は材料に対する要求水準が高く、炭素繊維を強化要素とする炭素繊維複合材料(CFRP)が必要とされる。例えばボーイング787では50%がCFRPだ。CFRPのマトリックスに使われる高分子は、ポリエステルやエポキシ樹脂、ポリイミドなど。しかし耐熱性の高い高分子が開発されれば、ジェットエンジンの低圧コンプレッサーのブレードのようなエンジン部品や、超音速機のボディ要素などを、現状の金属からCFRPに置き換えることが可能になる。
高分子系複合材料の適用温度は現在、一般的には150℃まで、高温対策が施されていても250℃までだ。そこで研究チームは今回、ポリアミドやポリイミドの原料となるフタロニトリル・モノマーの分子設計に新しい手法を適用。この手法で熱硬化性を高めることで、450℃までの高温で適用可能な高分子系複合材料の開発に成功した。
研究チームは同時に、粘性を低めて成形性を改善し、射出成形によって製造できるように工夫した。射出成形で製造できれば、製造コストを抑えることができる。さらに接合部の数を極小化できるので、複雑な形状であっても信頼性の高い部品を作り出せるという利点もある。
チタンやアルミ合金は、同重量の高分子系複合材料と比べて、素材としての原価は8分の1~10分の1ほどだ。しかし、製造とメンテナンスにかかる費用を考えると、高分子系複合材料を使った方がはるかに少なくて済むという。
研究チームのBoris Bulgakov氏は、「例えば、高分子系複合材料によって製造される翼は、10の接合部で組み立てられる。だが、金属製の翼は100の接合部が必要だ。加えて、CFRPの強度はアルミの強度よりも6~8倍高く、同時にCFRPの比重は1.5倍低い」と語る。
航空機の重量を低減できれば、燃費消費を減らして積載貨物量を増やすことができる。CFRPの製造コストが多少高く付いても、燃費費の削減と積載貨物量の増加により相殺できるわけだ。さらに、CFRPは腐食しないので、メンテナンス費用も低減できるという。