東京大学の野村政宏准教授らの研究グループは2017年8月5日、周期的なナノ構造を用い、熱の波動性を利用した熱伝導制御に成功したと発表した。
熱伝導現象は、原子や分子の振動を粒子とみなしたフォノンの移動によって説明されてきた。しかし、振動の伝搬は波動性を持つため、周期的な構造中では干渉を起こし熱伝導が変化する可能性が指摘されていた。一方、波動的な効果を調べるためのフォノニック結晶構造でも、界面を変化させることで散乱も増減し、波動性に起因する干渉効果と波動性によらない散乱効果を分けて観測することは困難だった。
そこで研究グループは、試料として厚さ150nmのシリコンの薄膜に半径100nmほどの円孔をあけた両持ち梁構造を作製。さらに、干渉効果だけを抽出するため、孔加工によってできる界面の表面積を同じにしつつ、周期的に並んだ円孔の位置をずらして系統的に周期性の乱れの度合いを変えた多数の構造を用意した。また、測定には光を使った非接触の熱伝導計測用光学システムを使用し、従来の電気的手法では行えない系統的で誤差の小さい実験を可能にした。
結果、円孔の位置の周期性が完全結晶に近づくほど、熱伝導が抑制されるという理論的な予測と一致。また、実験結果が、拡散方程式や粒子的な描像に基づくシミュレーションではなく、波動性を取り込んだ理論計算によって再現できることを実証した。さらに、円孔側壁の表面粗さを考慮した計算から、表面が滑らかなほど波動の干渉効果は大きくなるとも説明している。
この成果は、熱伝導の波動的性質を使った新しい制御手法を提供しており、基礎研究を発展させると共に、半導体分野への応用が見込まれるとしている。