量子スピン液体状態における「スピン-格子デカップリング現象」を世界で初めて観測 物質・材料研究機構と東大

磁性体内部での電子スピンの様子(左) と、量子スピン液体になる有機物質の結晶構造の模式図 (右)

物質・材料研究機構は2018年4月23日、東京大学と共同で、量子スピン液体状態において電子スピン系と格子系の総合作用が極めて弱くなり、スピンが格子から孤立する「スピン-格子デカップリング現象」を、世界で初めて観測したと発表した。

量子スピン液体状態とは、極低温でも原子や分子が整列せず安定していない特殊な状態だ。量子スピン液体状態では、スピノンと呼ばれる特異な粒子が物質内部を自由に動き回ることで、さまざまな興味深い物理現象を引き起こすと考えられている。

実際に、量子スピン液体になる有機物質κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3は、電気をまったく流さない絶縁体であるにもかかわらず、比熱や磁化率実験の結果が、物質内部をスピンが動き回っていることを示す。一方、熱伝導率の実験では、スピンがまったく動けないかのような結果を示す。その相反する結果がなぜ発生するのかは不明だった。

今回の研究では、κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3の純良単結晶を育成し、0.1ケルビンという極低温、17テスラという高磁場領域まで磁気熱量効果を精密に測定した。その結果、極低温、磁場中で、電子スピン系から格子系へ、熱が急激に流れなくなることを発見した。これは、量子スピン液体状態において、電子スピン系と格子系の相互作用が極めて弱くなる、つまりスピンが格子から孤立して、エネルギーをやり取りできなくなる現象「スピン-格子デカップリング現象」が発生していることを意味するという。

今回の実験に使用した有機物質の結晶構造は、平板状のBEDT-TTF有機分子 (二量体) 上に1つのスピンが存在し、同二量体が三角形の幾何学的配置で整列。通常は格子状でスピンの向きを反対に揃えようとする相互作用が働くなどでスピン状態が決まるが、スピンが三角形に配置されると、1,2番目のスピン方向が定まっても、最後の3番目のスピン方向が決定できないことから、スピンが自由に動き回れる特殊な液体状態(スピン液体状態)が発生すると考えられている。

今回の研究は、長年解明できなかった量子スピン液体になる有機物質の比熱、磁化率、および熱伝導率といった性質の間の相反する結果に統一的な解釈を与えるものだ。また、今回発見した「スピン-格子デカップリング現象」は、今後その現象を解明することにより、新たな磁気冷却技術の確立や、磁場によりON/OFFできる熱伝導フィルターなどへの応用が期待できるという。

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