科学技術振興機構(JST)は2018年9月4日、燃料電池などに使用する電解質薄膜の研究にAGCが取り組み、機械的な耐久性(乾湿サイクル耐久性)を従来比で5倍以上に向上した薄膜の開発に成功したと発表した。
今回開発した電解質薄膜は無補強で膜厚5μm、従来品は無補強で膜厚25μmという条件で乾湿サイクル耐久性を比較している。薄膜化にもつながることから、発電出力を向上できるのに加えて、燃料電池のスタックサイズを30%小型化できる見通しだ。
この研究は、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環として、AGCが取り組んだ研究の成果。AGCが保有するフッ素系ポリマー技術と、大学などが得意とする膜の構造解析技術やシミュレーション技術を連携させた。
燃料電池の本格的な普及に向けては、発電出力の向上やシステムの簡素化が課題となっている。どちらも電解質膜を薄膜化することで達成できるが、一般的なフッ素系電解質ポリマーでつくる電解質膜を無補強で薄膜化すると、発電時の負荷変動に耐え得る乾湿サイクル耐久性が大幅に低下するという問題があった。
そこで研究チームは、電解質膜の破壊挙動に関する基礎的検討から着手。劣化メカニズムの解明や、劣化を支配するマクロな膜物性の抽出、ミクロなレベルでの膜物性の理解を進めた。その結果、乾湿サイクル耐久性を表す「乾湿サイクル指標」を見出し、マクロな電解質膜の物性値から耐久性を予測できるようになった。
そうした研究成果を踏まえて、新しいコンセプトで電解質ポリマーを設計。乾湿サイクル耐久性を向上させるために最適な物性の膜を具現化することに成功した。
今後は実用化に向けて、数年のうちにプロセス開発やシステムの検証を進めていく計画だ。