水を用いてビニル系プラスチックから炭素資源を回収できる技術を開発 信州大学と海洋研究開発機構

信州大学は2024年10月7日、同大学および海洋研究開発機構の共同研究チームが、水を用いてビニル系プラスチックから炭素資源を回収できる技術を開発したと発表した。

プラスチックによる環境汚染への対策として、使用済みのプラスチックを回収して再利用する技術の開発が求められている。

同大学は以前に、アセチルサリチル酸(アスピリン、頭痛薬の一種)を用いた新たなプラスチックを合成した。同プラスチックはビニルポリマーでありつつも、強酸や強アルカリで分解し、原料として再生可能なものとなっている。

今回は、高温高圧水による処理技術に着目した。同研究チームは以前より、高温高圧水を使用したビニルポリマーの高速合成技術を共同開発している。

共同研究チームの体制

アセチルサリチル酸由来のビニルポリマーを粉末状にし、ステンレス製チューブに純水とともに封入。300℃の砂浴に5分間浸し、水浴で急冷した。

チューブを開封して中身を取り出したところ、針状結晶が得られた。凍結乾燥により水を含む揮発成分を除去すると、フェノールを収率97%で回収できた。

加熱する温度や時間を変えて検討したところ、以下の事実が判明した。

  • ビニルポリマーの側基が加水分解してサリチル酸を再生するが、直ちに脱CO2が続いてフェノールに変化する
  • 主鎖も加水分解するが、反応が不完全で酢酸を含んだ混合物が得られる。揮発成分であるため、凍結乾燥により除去される
  • ビニルポリマーから全重量の57%(炭素原子の65%)の炭素資源が回収できる

サリチル酸は、フェノールにCO2を反応させることで製造される。今回の技術を用いることで、回収したフェノールからビニルポリマーを再生する「ケミカルリサイクル」も原理的に可能だ。

フェノールを用いたモノマー再生

今回の技術をバイオマス由来の物質に適用することで、天然の炭素資源からプラスチックを製造し、それらの廃棄物から炭素資源を回収するサイクルの開発につながることが期待される。同研究チームでは、バイオマス由来の炭素資源を用いた新しい分子骨格の探索を進めている。

また、現状ではサリチル酸から最終的にフェノールが生じているが、分解をサリチル酸で留めることができれば、リサイクル工程をさらに短縮することが可能となる。同研究チームは、このような手法の開発に向けて、脱CO2反応を抑える反応条件の探索を進めるという。

関連情報

高坂准教授、長田教授ら、ビニル系プラスチックから「水」を使って炭素資源を回収-2024.10.07|信州大学 繊維学部

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