山形大学は2018年10月2日、「ペロブスカイト量子ドット」の新たな製法を開発し、ペロブスカイト量子ドットLEDでは世界最高水準となる外部量子効率20%超えを達成したと発表した。色純度も非常に高く、高い色再現性が求められるディスプレイや照明などの次世代型発光デバイスへの応用が期待される。
量子ドットは数nmから数十nmの小さな結晶構造をした材料。材料や結晶のサイズを変えることで吸収する光の波長が変化し、色純度が高いことから、これまでカラーフィルターなどへの応用が検討されてきた。
ペロブスカイト構造CsPbX3(X=Cl,Br,I)をもつ量子ドットはペロブスカイト量子ドットと呼ばれ、高い発光量子効率とシャープな発光スペクトルを示すことから、有機EL材料やカドミウム系量子ドットに替わる次世代型発光デバイス(LED)材料として注目を集めている。量子ドットの結晶サイズやハロゲンアニオン(X)による発光波長の制御が容易なことが特徴だ。
現在は、臭素アニオンからなる緑色発光性CsPbBr3を用いたペロブスカイト量子ドットLEDの高性能化が重点的に研究されている。一方で、赤色発光を示すCsPbI3は結晶構造が不安定であることから、LEDへの応用や高性能化が困難であるとされていた。
そこで山形大学の研究グループは、ペロブスカイト量子ドットのハロゲンアニオン交換による発光波長の制御に着目。ハロゲンアニオン交換によって、緑色から赤色に発光波長を変換したペロブスカイト量子ドットを開発し、赤色ペロブスカイト量子ドットLEDの高性能化に成功した。
まず、金属化合物を高温溶媒へ急速に投入するホットインジェクション法により、安定性の高い緑色発光性ペロブスカイト量子ドットCsPbBr3を合成。これにヨウ素含有のアンモニウム塩を添加することで、ハロゲンアニオンを交換した。アンモニウム塩は、アルキルアンモニウム塩としてオレイルアミンヨウ素(OAM-I)、アリールアンモニウム塩(An-HI)としてアニリンヨウ酸塩の2種類を用いた。
ハロゲンアニオン交換前のCsPbBr3は、発光波長508nmの緑色発光を示すのに対し、OAM-I添加では649nm、An-HI添加では644nmと発光波長が長くなり、赤色発光を示した。また、X線光電子分光法で化学組成を解析すると、CsPbBr3には存在していなかったヨウ素のスペクトルが現れると同時に、臭素のスペクトル強度が低下した。このことから、臭素の一部がヨウ素に置換されていることが確認された。
また、ハロゲンアニオン交換前は鉛:臭素の元素比が1:2.78で1:3ではないことから、ペロブスカイト量子ドット内のハロゲンアニオン欠陥が示唆された。これに対し、ハロゲンアニオン交換後の元素比はOAM-Iで1:3.00、An-HIでは1:2.94となり、アニオン欠陥が補填されていることも確認した。さらに、アニオン欠陥を補填することで、発光量子効率が大幅に向上することも明らかにした。
そして、実際にペロブスカイト量子ドットLEDを作製したところ、ハロゲンアニオン交換前では発光開始電圧が5.6V、発光波長は511nmであるのに対し、OAM-Iでは2.8Vと653nm、An-HIは2.7Vと645nmとなり、低電圧化および長波長化に成功した。色度座標はOAM-Iで(0.72、0.28)、An-HIで(0.71、0.28)と、超高精細度テレビの国際規格の範囲をカバーする非常に高い色純度の赤色発光だった。外部量子効率はハロゲンアニオン交換前は0.17%であるのに対し、OAM-Iで21.3%、An-HIで14.1%をそれぞれ達成。特に21.3%の発光効率は世界最高水準だという。
これらの成果をもとに、薄膜状態におけるペロブスカイト量子ドットの化学組成や表面配位子の精密な制御を進め、より一層の高性能化に向けたデバイス開発指針を確立することで、ディスプレイや照明用途への展開が期待される。また、今回の研究ではペロブスカイト量子ドット表面の配位子量と耐久寿命特性の相関も明らかになった。今後研究グループは、ペロブスカイト量子ドットLEDの耐久性向上に向けた検証を進めていく予定だという。