東北大学は2019年2月28日、磁気センサーへの応用が可能な鉄スズ磁石薄膜のフレキシブルホール素子を開発したと発表した。
従来、磁気センサーには半導体ホール素子が多く用いられてきた。半導体ホール素子で高性能の素子を実現するためには、数百℃以上の高温プロセスで作成したGaAsやInSbなどの半導体単結晶薄膜を用いる必要があった。また、同素子は電気特性が温度に強く依存するという課題があった。
今回開発したホール素子は、半導体ホール素子とは異なる、強磁性体で発現する異常ホール効果による素子原理を持つものだ。同原理による素子は、半導体ホール素子の弱点を補うものとして期待されてきたが、これまでは、バルク単結晶レベル(0.1~1mmスケールの塊状試料)や、低温でのみしか実用化可能な性能が観測できなかった。
東北大学では、安価で毒性の低い元素鉄スズ(Fe-Sn)合金系強磁性体を対象に、室温での薄膜合成によって、FeとSnの組成を調整。微結晶性のFe-Sn薄膜において、バルク単結晶に匹敵し、ホール素子に応用可能な大きな異常ホール効果を観測した。また、ホール素子としての感度係数が-75~+125℃の広い温度範囲でわずか数パーセントしか変動せず、温度の影響が極めて低いことも同時に確認した。
さらに、薄膜の土台にフレキシブルな高分子PEN(ポリエチレンナフタレート)シートを用いて検証し、曲げた状態でも磁気検出動作が可能であることも実証した。
今回の薄膜は、一般的な薄膜合成手法であるスパッタリング法によって、室温で容易に作製できることも特徴だ。
今回の実証によって、関連する金属系磁石薄膜を用いた磁気センサーの開発が前進するとともに、従来の半導体素子とは異なった磁石の特性を活用した新たな応用研究が加速することが期待されるという。