理化学研究所(理研)は2019年6月7日、千葉大学との国際共同研究グループが、有機太陽電池における効率的な光電流生成に必要な、有機半導体の電子エネルギー差を明らかにしたと発表した。同研究成果は、有機太陽電池の発電メカニズムの解明につながるとともに、高効率化に向けた新しい材料開発に貢献すると期待される。
太陽電池の光電変換効率を高めるには、電流とともに電圧も重要である。近年、電子エネルギーの値が近い2つの材料を選ぶと、高い電圧が得られることが分かってきた。優れた太陽電池材料を開発するには、光電変換効率を最大化するように、2つの材料の電子エネルギー差を最適化することが求められる。しかし、これまで光電変換効率と電子エネルギー差の関連は定量的に評価できなかった。
今回、国際共同研究グループは、異なる分子構造と電子エネルギーを持つ電子供与性と電子受容性の有機半導体を4種類ずつ用いて、合計16個の平面ヘテロ接合構造を持つ有機太陽電池を作製した。材料の積層は、薄膜転写法を用いた。それら異なる材料の電子エネルギーと電流発生効率の相関を系統的に調べた。その結果、有機半導体の励起状態と界面での電荷移動状態の間に0.2~0.3eVのエネルギー差があるときに、最も効率的に光を電流に変換できることを見い出した。一方、これまで重要と考えられてきた電荷移動状態と自由電荷状態のエネルギー差は、電荷生成効率との明確な相関が見られなかった。この結果は、従来の有機半導体開発の指針に修正を迫るものである。
これまでは、高い効率の太陽電池を作る明確な指針がなかったが、今回の成果により、光電変換効率に大きく影響する過程が明らかになり、さらに効率的な電荷生成に必要な最低の電子エネルギー差が見つかった。分子の電子状態エネルギーをどの程度に設定するのかという定量的な指針が得られたことにより、試作を繰り返しながら最適化を図ることなく、効率的な材料開発ができるようになるとしている。