京都大学は2019年6月13日、同大学の研究グループが、現在ポルフィリン色素の中で世界最高のエネルギー変換効率を示す色素を上回る性能を持つ、新規ポルフィリン色素の開発に成功したと発表した。
現在、持続可能な社会の実現に向けた再生可能エネルギーとして、太陽光発電に期待が寄せられている。すでにシリコン太陽電池が実現化されているが、製造コストや重量による設置場所の制限などが普及への課題となっている。他方、有機化合物を用いた有機太陽電池は軽量で柔軟性に富んでおり、シリコン太陽電池に比べて製造コストを低く抑えられる可能性があることから、次世代の太陽電池として期待されている。
中でも有機色素を吸着させた半導体電極と金属電極で電解液を挟み込んだ構造の「色素増感太陽電池」は、作成が簡便かつ高いエネルギー変換効率を達成できることから注目を集めている。この色素増感太陽電池の発電メカニズムには有機色素が主な役割を果たしていることから、高いエネルギー変換効率の実現のためには有機色素をどのように設計するかが重要となる。
色素増感太陽電池の初期においては、ルテニウムという金属を用いた色素が用いられていたが、ルテニウムがレアメタルでありコストがかかるため、金属を用いない有機色素の開発が求められてきた。その中で、同大の研究グループは有機色素のポルフィリンに注目して研究を進めてきた。そして現在、高いエネルギー効率変換を達成する色素の設計指針として、電子供与性のドナー部位/電子受容性のアクセプター部位を含む構造を用いることが有効であることが明らかになっており、2014年にはドナー/アクセプター構造を導入したポルフィリン色素を用いて13%という世界最高のエネルギー効率が実現されている。しかし、その後エネルギー変換効率の最高値は更新されておらず、新たな色素の開発が待ち望まれていた。
これまで、ドナー/アクセプター構造を持つポルフィリン色素のエネルギー変換効率が最高値を記録する一方で、縮環ポルフィリン色素はエネルギー変換効率が低く、あまり注目されてこなかった。しかし今回、研究グループは適切な分子設計を行うことにより、世界で初めて縮環ポルフィリン色素で10%を超えるエネルギー変換効率を達成した。また、現在世界最高のエネルギー変換効率を示す色素を参照色素として太陽電池性能比較を行い、今回開発した色素が参照色素を上回る性能を示すことを明らかにした。
今回の結果は、縮環ポルフィリン色素に再びスポットライトを当て、色素増感太陽電池の新たな分子設計指針を与えた。特に、現在世界最高のエネルギー変換効率を実現しているポルフィリン色素を上回る性能を示す色素を開発できたことから、さらなる太陽電池作製条件の最適化を行うことで、13%を超える世界最高のエネルギー変換効率の実現が期待できるという。さらには、この研究における分子設計指針をもとに色素の改良を行うことで、実用化における一つの目安とされている15%のエネルギー変換効率の実現も視野に入り、色素増感太陽電池の実用化に向けた大きな前進が期待できるとしている。