東京大学は2019年8月29日、同大学の研究グループが世界で初めて、水の浄化やタンパク質の抽出/精製に使用される「イオン交換」が半導体プラスチック(高分子半導体)でもナノメートルサイズの隙間を用いて可能であることを明らかにしたと発表した。
半導体中の電子の数やエネルギーは、半導体の結晶の中に少量の不純物(ドーパント)を添加することで制御できる。この不純物ドーピングは半導体プラスチックにも適用されており、電気が流れるプラスチックである導電性高分子は、さまざまな電極材料や機能性コーティング剤として産業応用も拡大されつつある。
半導体プラスチックのドーピングには酸化還元力を有する分子が用いられており、半導体プラスチックは添加されたドーパント分子と電子のやりとりをすることで電子の数を劇的に変化させ、導電性高分子となる。しかし、強い酸化還元能力を持つドーパント分子は大気中の水や酸素と反応し、ドーパントとしての機能を簡単に消失してしまう。この酸化還元反応の制約を乗り越えることは、過去半世紀にわたるドーパント材料開発においても達成されず、安定に多くの電子をやりとりする手法の実現が望まれていた。
研究グループは「半導体プラスチックとドーパント分子の間の酸化還元反応を全く別の現象で制御することはできないのか」という問いを立て、従来は半導体プラスチックとドーパント分子の2分子系で行われていたドーピング手法に新たにイオンを添加した。その結果、2分子系では逃れることのできなかった制約が解消され、従来よりも圧倒的に高い伝導性を有する導電性高分子の開発に成功した。
この多分子系では、イオン化したドーパント分子が新たに添加されたイオンと瞬時に交換することが実験的に確かめられ、適切なイオンを選定することでイオン変換効率がほぼ100%となることも明らかにした。また、イオン交換効率を制御することで、半導体中の電子の数や流れやすさが変化することを利用して、金属性を示すプラスチックの実現にも成功した。
今回、研究グループが発見した手法は大面積化が容易な室温付近の溶液プロセスであり、半導体プラスチックのドーピング量や結晶性、熱耐久性、伝導特性を著しく向上させる。今後は多彩なイオン性化合物を選択することにより、さらに伝導特性や物理化学的特性の制御が可能になるという。今回の研究で実現した金属性プラスチック内のイオン交換反応は、イオントロニクスデバイスの実現を大きく前進させることができるとしており、固体中のイオンと電子を協奏的に制御することで、イオンと電子の両方の特長を活かした「固体イオントロニクスデバイス」の実現も期待できるとしている。