室温動作スピントロニクス素子を用いて量子アニーリングマシンの機能を実現――情報処理技術の新たな展開に期待 東北大

東北大学は2019年9月19日、米パデュー大学と共同で、量子ビット(Quantum bit:qビット)と似た機能を有する新概念スピントロニクス素子を開発し、それを用いて量子アニーリングマシンを模倣したシステムを構築し、室温にて因数分解の実証に成功したと発表した。

量子力学の原理を利用して情報処理を行う量子コンピューターは、古典コンピューターが苦手とする最適化問題などの複雑な問題を効率的に処理できると期待され、国内外で活発な研究開発が行われている。古典コンピューターでは情報を0と1のビット列で表して逐次的に演算が行われるのに対して、量子コンピューターでは0と1の重ね合わせ状態を利用して並列に演算が行われる。量子コンピューターにはゲート方式とアニーリング方式があり、一般的にゲート方式はより汎用性が高く、アニーリング方式は主に最適化問題に有用であると認識されている。

また、量子コンピューターの可能性を早い段階から指摘した研究者の米リチャード・ファインマン博士は、1981年に行った講演の中で量子計算の前段階と位置付けられる別の計算原理に基づくコンピューター「Probabilistic computer(確率論的コンピューター)」の可能性に言及している。量子コンピューターでは量子ビットが計算を行う基本ユニットとなるのに対して、確率論的コンピューターでは0と1の間で状態が常に時間的に揺らぎ、その滞在確率が外部入力によって制御可能な確率ビット(Probabilistic bit:pビット)が用いられる。これまでqビットについては、主に超伝導磁束量子などが用いられ、ゲート方式では数10ビット、アニーリング方式では数1000ビットの量子コンピューターが開発されているのに対して、pビットを用いた確率論的コンピューターに脚光が当たることはあまりなかった。

今回、研究グループは、従来の不揮発性磁気メモリ向け素子とは真逆の特性を示す新概念磁気トンネル接合素子を開発した。このスピントロニクス素子は「0」状態と「1」状態が短い時間間隔で確率的に揺らぐように設計されており、「0」と「1」の重ね合わせ状態を制御する量子ビットのように利用できる。実証実験では、この「疑似」量子ビットからなるネットワークに量子アニーリングと同様な手法を適用して因数分解を行い、最適化問題を扱う手法としての汎用的な有用性を実証した。

今回、同研究チームが開発した素子技術は、量子ビットと多くの点で互換性があり、かつ室温動作が可能、ビット間の相互作用の実装や大規模化が容易であるなどの特徴があり、情報処理技術に新たな展開をもたらすことが期待できるとしている。

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