理化学研究所(理研)は2019年12月27日、薄板ガラスに形成した微細空洞中の気体を熱膨張させ、レンズとして使用できるガラス製の微小ドーム構造を短時間に高精度で簡便に大量作製する技術を開発したと発表した。
透明な微小ドーム構造やその集合体であるアレイは、スマートフォンのカメラやセンサーモジュールの部品などにも応用されている。特に近年は、微小レンズを製造する技術が求められている。
現状では、プラスチック材料を用い、鋳造法によって大量に製造している。しかし、プラスチックはガラスに比べて耐久性が低く、透明性も劣り、廃棄プラスチックによる環境負荷の問題もあることから、ガラス製レンズの需要が高まっている。
研究では、ガラスの中に封入した気体の熱膨張を利用する吹きガラス製法に着目。伝統ガラス加工分野では数百年来用いられてきた伝統技術をマイクロスケール加工に利用し、高いアスペクト比で表面から突出した薄壁のガラス微小ドーム構造を高精度に短時間で簡便に大量生産できる技術を開発した。
その手法は、ガラスを溶かすフッ化水素酸によるエッチングで、ガラス基板上に浅い微小なくぼみを形成し、カバーガラスを重ねて仮接合して閉じた空洞を作るものだ。
この状態で周囲を真空引きしながら加熱すると、空洞中の空気が膨張し、板ガラスが徐々にドーム状に膨らみ、微小ドーム構造が形成され、同時に、ドーム以外の部分の基板とカバーのガラスが接合される。
その後、予測した形状に到達したタイミングで加熱をやめ、真空引きしながらプログラム制御でゆっくり冷ませば、ドーム形状が保たれたまま設計した寸法通りのガラス微小ドーム構造が出来上がる。
ドーム作製時に充填液を用いるか否かで、レンズの種類は変更できる。
充填液を用いない場合は、熱膨張によりレンズの中央部のガラス壁が少し薄くなり、これが上下に二重になることで、二重の凹レンズ、つまり縮小レンズになる。
一方、屈折率がガラスと同様に空気よりも大きい充填液を用いると、両凸レンズになり、拡大レンズとして機能する。その拡大効果は最大1.65倍に達する。
なお、充填液を用いる場合は完全なガラス製レンズではなくなるが、外側はガラスであるため、物理的強度や化学的耐性といったガラスの基本的な特性は保たれる。
今回の実験では、厚さ100μm~250μmのガラス板を用いて、直径30μm~1mmのさまざまな種類の微小ドーム構造も作製した。
ガラスの厚さやくぼみの直径と深さによってドーム構造がどのように変化するかを調べたところ、用いるカバーガラスが薄く、くぼみの直径が大きく、くぼみが深いほどドームの高さは高くなることが分かった。この傾向は理論とも一致し、ドーム高さのばらつきも誤差5%以内と非常に小さかった。
これにより、本手法による微小ドーム構造の設計が容易で、再現性に優れることが確認された。また、表面形状測定機による測定によって、ドーム構造は非常にきれいな釣り鐘型の3次元構造と断面形状を持つことも示された。
研究では、作製したガラスレンズが高温下をはじめ、強酸や有機溶媒中で使用できるかも検証した。ホットプレートで300℃以上に加熱したところ、充填液があってもガラスレンズの機能は保たれた。また、強酸である硫酸中や有機溶剤のアセトン中でも、空洞レンズも充填レンズもともに機能することが確認された。
本研究で開発したガラス微小ドーム構造の作製手法は、短時間に高精度かつ簡便に大量生産できるという利点を持ち、ガラスで作製されているためレンズとしても長期安定性に優れ、極端条件下でも、そして、多様な工業用途にも用いられることが期待できる。
研修者らは、先行研究で開発したガラスの特徴を生かしたマイクロ流体チップに、今回開発した微小なガラス製レンズを組み込む研究を進め、バイオ分析などの用途で利用したいとしている。