大阪大学は2020年1月8日、同大学大学院工学研究科の南方聖司教授らが、オーストラリアモナシュ大学、ポーランドシレジア工科大学、英国ダラム大学、デンマーク工科大学、ポーランド シレジア工科大学との共同研究で、電子ドナー(D)と電子アクセプター(A)が交互に繰返して環状に連結した熱活性化遅延蛍光(TADF)材料を開発したと発表した。ナノサイズの穴をもつ環状構造の第三世代有機EL発光材料となる。
同研究グループは、独自に開発したU字型π共役分子のジベンゾフェナジンが、環構築に有効な幾何学構造であることと、優れた光/電子機能を有していることに着目。ジベンゾフェナジンを鍵骨格とする環状D–Aπ共役分子構造をもつTADF材料の開発に取り組んだ。
研究の結果、新しい環状TADF分子の合成に成功。これが結晶化条件の違いによって異なる発光色を示すことや、効率的なTADF特性を示すことを発見した。異なる発光色は、X構造解析の結果、結晶中の立体配座と積層様式の違いに由来することが分かった。
また、環構造が物性に与える影響を調査するために、対照物質としてD-Aが繰返し直線的に連なった分子を別途合成。物性を調査したところ、環状分子の方が直線状分子よりも発光におけるTADFの寄与が高く、よりTADF材料として優れていることを見出した。
今回開発した環状TADF分子を発光材料として作製した有機EL素子の最高外部量子効率(EQE)は、従来の蛍光材料を用いた場合の限界値5%、直線状類縁体を発光材料とした場合の値6.9%を超え、11.6%を達成している。
今回の研究により、未解明だったπ電子ドナー・アクセプター繰り返しユニットの環化によるTADF特性への影響が明らかになり、新たなTADF材料設計指針を示すことができた。環状TADF材料の創製研究は未発展だったが、今回の研究成果により、ナノサイズの穴をもつ多孔性構造とTADF機能を活かしたガスや水分子などの化学物質のセンシング材料開発へ発展することが期待される。