- 2020-6-25
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- IoT, pNB-Tz, ナフトジチオフェンジイミド, 有機半導体, 熱電変換材料, 理化学研究所, 理研, 環境発電技術, 研究, 高分子半導体, 高分子熱電変換材料
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発分子機能研究チームのワン・ヤン訪問研究員と瀧宮和男氏チームリーダーの研究チームは2020年6月22日、独自の高分子半導体材料を用いて高性能な熱電変換材料を開発したと発表した。熱電特性がこれまでのn型高分子半導体材料の中で最高レベルだという。
近年、身の周りに遍在する熱エネルギーを電気エネルギーとして回収するために、安価で安全に熱電変換ができる材料の開発が望まれており、有機半導体や高分子半導体が注目されている。有機半導体材料は熱電変換に用いることが検討され始め、p型半導体材料は高い特性のものが報告されているが、n型半導体の熱電材料の開発が立ち遅れており、p、n両型の材料を用いる高効率熱電変換への応用が大きな課題となっていた。
研究チームは今回、高分子半導体材料の主要な構成成分に、独自に開発したナフトジチオフェンジイミド(NDTI)と呼ばれるn型有機半導体用の分子骨格を採用。ビチオフェンイミドとチアゾールを組み合わせ、新しいn型高分子半導体材料「pNB-Tz」を開発した。これらの構成成分は電子不足の芳香族骨格であることからpNB-Tzは電子ドープにより電子が注入されやすいn型半導体であり、電子移動度も高いことがわかったという。
さらに、電気伝導率を高めるため、pNB-Tzとn型ドープ剤のN-DMBIを溶液中で混合して電子ドープを施した。基板にその溶液を塗布して薄膜を作製すると、薄膜は最高で11.6 Scm-1と高い電気伝導率を示した。ゼーベック係数も高い値を保っており、熱電変換特性の指標であるパワーファクターが53.4 μWm-1K-2に達した。これらの特性は、これまでに報告されているn型高分子半導体材料の中で最も優れている。
次に、X線回折法によってpNB-Tz分子の薄膜中の集積構造を調べ、こうした特性の原因を探った。その結果、側鎖構造のわずかな違いによって分子配向が異なること、分子配向によって熱電材料としての特性が大きく異なることが分かった。熱電特性の高性能化には、3次元電気伝導経路の構築とn型ドープ由来の対カチオン種の効果的な収容が重要という材料設計の指針が明確になった。
研究成果は、IoT(モノのインターネット)や小型IT機器類の自立型電源に向け、身の周りのわずかなエネルギーを電力に変換する環境発電技術に貢献することが期待できる。しかし、今回の研究で得られた熱電特性は、これまでのn型高分子半導体材料の中では最高レベルのものの、実用化にはさらなる高性能化が必要となる。一方で、高性能化のための指針が明確になっていることから、今後はこれらを意識した材料設計と開発を進めていく。