- 2020-7-17
- 技術ニュース, 電気・電子系
- LiNbO2, p型透明導電体, 層状ニオブ酸リチウム, 東京工業大学, 東京工業大学物質理工学院応用化学系, 東北大学, 東北大学多元物質科学研究所, 研究, 超伝導体, 透明導電体
東京工業大学と東北大学は2020年7月16日、低温で超伝導体になる層状ニオブ酸リチウム(LiNbO2)が常温では優れたp型透明導電体になることを発見したと発表した。
透明導電体は、透明性と電気伝導性を併せ持つ。透明な物質は基本的に電気を流さない絶縁体だが、ある種の材料では電気が流れる。しかし、実用水準の材料はすべて電子が流れるn型で、n型とペアになって多様な電子回路を構成し得るp型透明導電体はn型に比べて性能が低く、研究開発の段階にとどまっている。
一方、超伝導体は電気抵抗がゼロになる電気伝導性を持つ。実用化されている超伝導体は常温で金属という不透明な物質であり、これまでp型透明超伝導体は見つかっていなかった。
研究グループは、p型透明超伝導体の候補として、30年前から超伝導体であることが知られているLiNbO2に着目。LiNbO2が二硫化モリブデンと同様に、三角柱型の二次元層から成る酸化物であることに注目したという。しかし、通常の手法では薄膜合成が困難であることから、透明性の詳しい性質までは分かっていなかった。
そこで、研究グループは三段階合成法を開発することで、超伝導を示すLiNbO2のエピタキシャル薄膜を合成した。最終段階のStep 3では、古くから知られるヨウ素溶液の酸化作用に着目。薄膜をヨウ素溶液に浸して電子を引き抜く化学反応を利用した。
合成した薄膜の電気抵抗は、4.2ケルビン(-269 ℃)以下の極低温で電気抵抗がゼロになり、超伝導体であることを確認した。一方、ヨウ素溶液から取り出した薄膜は、赤色から黄色へと劇的に変化。可視光の平均透過率は50%に達し、高い透明性を示した。
常温での性能をこれまでのp型酸化物透明導電体と比較した結果では、電気伝導性と透明性が共に優れていた。これまでの物質とは対照的に、ヨウ素溶液に浸して電気伝導性を上げると高いp型伝導性と透明性が同時に発現する。
物質内では、ニオブ原子と酸素原子が作る三角柱型の二次元層が重要な役割を果たしており、この特殊な構造によって強相関電子と孤立したバンド構造というユニークな特徴を持つことが分かった。これらの電子状態が協奏し、近赤外と紫外領域の両方で高い透明性が実現していたという。こうした特徴をヨウ素溶液の酸化作用を用いてほどよく調整した結果、超伝導を発現しつつ可視光領域の透明性を向上できることが明らかになった。
研究の成果は、常温でのp型伝導性と透明性を同時に高められる利点を明らかにしており、性能の向上が期待される。また、高い透明性の起源を解明している。今後、さらなる高性能化や新機能の開拓につながることが期待できる。