フッ素樹脂とステンレス鋼板を直接接合できる表面処理と接合技術を開発 ヒロテックら

ー30℃で使用した引張試験検体

ヒロテックは2022年5月31日、大林道路、大蓉ホールディングス、海洋研究開発機構、大阪工業大学などと共同で、フッ素樹脂とステンレス鋼板を直接接合できる新たな表面処理と接合技術を開発したと発表した。接合強度は、−30~175℃と幅広い温度環境下での使用でも維持される。

ダンプトラックなどの荷台に積載して運搬する土砂の積み下ろしでは、土砂が荷台表面に付着して残りやすいこと(付着残土)から実質的な積載量が減少する。付着残土は積載貨物の平均5%とされ、ダンプトラックの稼働率が付着残土の清掃作業によって低下することに加え、運搬回数や車両消費燃料に伴うエネルギー消費量や二酸化炭素(CO2)排出量の増加、高コスト化といった問題を土木/建築業界で引き起こしている。

これらの問題の解決に向け、ダンプトラックの荷台表面への潤滑素材の貼り付けや塗布などが試行されたが、画期的な効果は得られていなかった。ヒロテックらは、こうした土木/建築業界での課題解決のほか、同業界の労働力不足やダンプトラック荷台の清掃作業での労働災害の撲滅を目指し、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」にて、新たな技術を開発した。

超潤滑、高強度だが難接着/難接合材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などフッ素樹脂と金属(ステンレス鋼板)を、レーザーで高強度に直接接合できる金属表面処理技術を開発したことにより、超潤滑材料であるPTFEとステンレス鋼板の高強度直接接合技術を確立した。

自社開発した金属表面処理による酸化物粒子概要[走査電子顕微鏡(SEM)画像]と接合断面の走査透過型電子顕微鏡(STEM)画像

ナノレベルの酸化物粒子を金属表面にクラスター状に構造配置し、これを金属触媒として樹脂の最表面を理想的な化学状態に分解。金属酸化物粒子と樹脂表面を化学的に結合させ、フッ素樹脂と金属の高強度直接接合技術を創出した。

さらに、自社開発した同時に加熱と加圧をする接合装置により、樹脂に環境負荷の高い化学的な表面処理をせずに、これまでの技術と比較して非常に高い接合強度(25mm当たり120N以上(ISO19095 TYPE-C準拠))を達成。高速接合もでき、接合速度は1分当たり1000mm以上となっている。

フッ素樹脂と金属の直接接合による剥離強度

接合強度がー30~175℃の幅広い温度環境で維持されることも確認。寒冷地での使用のほか、アスファルトの運搬時など、さまざまな環境下での使用や幅広い分野への適用が期待できる。

開発したPTFEとステンレス鋼板の直接接合製品は、大蓉ホールディングスのダンプトラックに取り付け、関東圏の実際の運行環境下で2年3カ月間の性能検証を実施。ダンプトラック荷台の隅角(ぐうかく)部に開発製品を設置したところ、残土の荷台への付着を完全に解消できた。

開発製品のダンプトラックへの取り付け状態(荷台底面の左右、前方三辺の隅角部に取り付け)

効果は、年間9.38万kL(2030年市場普及想定数6万台)の燃料消費量削減に相当する。運搬効率の向上により、清掃作業の負担が軽減され、転落事故などのリスクも低減した。また、大林道路は、実際のダンプトラックの運行環境を模擬した加速促進試験を実施。接合耐久と潤滑性能を5年以上と評価した。

技術の開発、普及によって今後、土木/建築業界での土砂などの運搬効率が向上し、省エネルギー化が見込まれる。この技術を応用したマルチマテリアル化により、さまざまな産業分野の課題である軽量化も期待できる。

ヒロテックは研究開発終了後、開発製品の量産を開始。初出荷を2022年3月に完了した。大蓉ホールディングスは、関東地方を中心に製品の販売、車両への取り付けを実施する。ヒロテック、大林道路、大蓉ホールディングスは、同技術の適用範囲の拡大に向けた検討を重ねるほか、対象樹脂や金属種の拡大を図っていく。

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