早稲田大学は2020年9月2日、液体有機半導体と量子ドット水溶液を組み合わせ、自由に形状が変形できる液体の利点を維持しつつ、従来の液体有機半導体を用いた発光デバイスの中で最も発光色が色鮮やかなデバイスを開発したと発表した。
先行研究では、マイクロ流体技術を用いてマイクロ流体有機ELを開発。これにより、1チップ上で異なる種類の液体発光層の塗分けを可能にしたほか、曲げに強くフレキシブル性を示すデバイスや、駆動により劣化した液体発光層を入れ替えることで発光の再生を可能にするデバイスなどを展開してきた。しかし、従来の液体有機半導体を用いた発光デバイスは、発光のスペクトル幅の指標となる半値全幅が広く、発光色が色鮮やかないために、ディスプレイへの応用の際に課題になっていた。
本研究では、青色の液体発光材料を用いた有機ELをバックライトとして、その上に緑と赤色の量子ドット水溶液を集積し、励起/発光させることにより、液体材料ベースでの色鮮やかな発光の実現を目指した。デバイスは、ガラス基板とITO透明電極から成るバックライト上に、シリコーンゴムを用いて作製した流路構造を積層した。また、青色の液体発光材料は、液体有機半導体のNLQを液体ホスト材料として用い、それに青色発光材料の固体有機半導体であるDPAをゲスト分子として添加する手法により調整した。
そして、調整した青色の液体発光材料をバックライト部に、緑と赤色の量子ドット水溶液をシリコーンゴム製の流路にそれぞれ注入。流路の深さを制御し、量子ドット水溶液にバックライトの青色光を緑と赤色に変換する役割とバックライトの光を遮断する役割を持たせることで、色鮮やかな発光が実現可能であることを示した。
研究チームは、作製したデバイスに電圧を印加することで、バックライトからの青色と、量子ドット水溶液により変換された緑と赤色の発光を得た。スペクトルはバックライトの青色成分が遮断され、スペクトル幅の狭い緑および赤色発光であることを確認した。さらに、光の混合比を数値化して表現するCIE表色系を用いて評価することで、緑と赤色のプロットがCIE色度図の外周部付近に位置し、極めて色鮮やかな発光であることを認めた。
加えて、流路深さを増加させて量子ドット発光層を厚くして、緑と赤色発光の両者においてスペクトルのピーク位置が長波長側にシフトするとともに、スペクトルの半値全幅が狭くなることも確認した。流路深さが増大した際には、量子ドットのエネルギー移動の影響が強くなるため、粒子サイズの小さな量子ドットからの発光が抑制され、粒子サイズの大きなものからの発光が支配的になり、スペクトルのピークがシフトしたと考えられる。
液体有機半導体と量子ドット水溶液を組み合わせる手法は、形状を自由に変形できるという液体材料の利点を維持することから、曲げへの強い耐性と色純度の高い発光を必要とするフレキシブルディスプレイの実現に有用だと考えられる。また、量子ドット発光層の厚さと発光特性との関係は、次世代ディスプレイとして期待される量子ドットを用いた発光デバイス作製に大いに貢献することが期待される。