- 2020-11-3
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- カリフォルニア大学, グラフェン, グラフェンナノリボン, グラフェンナノリボン金属ワイヤ, 学術, 微細金属配線
カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが、金属としての導電性を有する、1原子の厚さで幅1.6nm、長さ数10nmのグラフェンナノリボン金属ワイヤを作製する手法を開発した。帯状グラフェンは本来、半導体特性を示すが、炭素の六角形格子構造から成る微小要素を一方向に結合するボトムアッププロセスの工夫により、金属の導電性実現に成功した。これにより、グラフェンだけで半導体と微細金属配線によるトランジスタの構成が可能になり、シリコンベースのトランジスタと比較して、スイッチング速度が顕著に増大し、1000倍以上のエネルギー消費削減を達成できると期待される。研究成果が、2020年9月25日の『Science』誌に公開されている。
2000年代以降、グラフェンに関する研究開発が活発に推進され、2Dシートやカーボンナノチューブが高い導電性を持つことなどが知られている。幅がnmサイズの帯状物質であるグラフェンナノリボン(GNR)は、電子移動度などの観点でシリコン半導体を遥かに凌駕する優れた半導体特性を示し、次世代のトランジスタや電子回路などへの応用が期待されている。
一方、集積回路を作製する上で欠くことのできない微細線幅の金属配線については、カーボン系材料で得られてないのが現状だ。全ての回路要素を、同一のカーボン系材料で作り上げることができれば、製造過程の簡素化や集積回路の高性能化など、様々なメリットが期待できると、化学科のFelix Fischer教授は語る。
研究チームは、GNRの電気特性がその長さ、幅、エッジ構造によって大きく変化することに着目し、金属としての高い導電性を持つGNRを開発することにチャレンジした。グラフェン2Dシートやカーボンナノチューブは、優れた金属導電性を持つことが知られているが、これらからnmサイズ幅の帯状を切り出すトップダウンプロセスでは、エッジ構造の効果によって自然に半導体または絶縁体に変化してしまう。そこで、研究チームは、炭素の六角形格子構造を持つ微小要素を、化学合成反応によって一方向に結合するボトムアッププロセスを採用した。ゼロエネルギーモードという電子軌道をエッジ構造に適切に導入して、自由に伝導する電子を供給することにより、2Dグラフェンに匹敵する導電性を持つGNRを実現することに成功した。更に、金属としてのエネルギーバンド特性を、走査型トンネル顕微鏡による表面電子軌道の観察および第一原理計算に基づいて確認している。
「この技術は、将来的に集積回路を作製する方法を革新する。現在、ムーアの法則の壁に直面しているシリコンベースのトランジスタで得られる最高性能レベルと比べても、著しく高速のスイッチング性能を非常に低い消費電力で達成することができるようになる。シリコンに代わるカーボンエレクトロニクスの道を切り拓くことで、例えば、携帯電話の充電量を何カ月も維持できるようになる」と、Felix Fischer教授は期待する。
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