超音波を利用する新しい3Dプリンティング技術――複雑で精密なオブジェクトの造形が可能

Image originally appeared in Nature Communications

超音波を用いて複雑で精密なオブジェクトを作製する、新しい3Dプリンティング技術「ダイレクトサウンドプリンティング(DSP:Direct Sound Printing)」が開発された。この研究はカナダのコンコルディア大学によるもので、2022年4月6日付で『Nature Communications』に掲載された。

現在使われている3Dプリンティング手法のほとんどは、ポリマーを精密に操作するために光または熱による活性化反応を利用している。

これに対し、DSPは音波を利用して新しい物体を作り出すもので、3Dプリンティングに新たな選択肢をもたらす可能性がある。超音波周波数は、細胞組織や腫瘍に対するレーザーアブレーションなど、破壊的な処置をする際に既に使われているが、研究チームは超音波周波数を使って何かを作りたいと考えたという。

DSPは、ポリマー溶液中に浮遊する微小な気泡内の圧力変動によって生じる化学反応を利用している。今回の論文では、集束超音波を利用して、極めて小さいキャビテーション領域、すなわちごく小さな気泡で音響化学反応を起こす方法が説明された。

ある特定の超音波を特定の周波数と出力で使用すると、非常に局所的かつ集中した化学反応領域を作り出せることが分かった。基本的に、気泡は、液体樹脂を固体または半固体に変化させる化学反応を促進する反応器として使用できる。

マイクロサイズの気泡内部で超音波による振動が引き起こす反応は、ピコ秒(1兆分の1秒)しか持続しないが強烈なものだ。気泡内の温度は約1万4700℃まで急上昇し、圧力は1000バールを超える。この反応時間は非常に短いため、周囲の材料に影響を与えることはない。

研究チームは、3Dバイオプリンティングなどに使われるポリジメチルシロキサン(PDMS)というポリマーで実験した。トランスデューサーを使って超音波場を発生させると、超音波場が造形材料のシェルを通り抜けて対象となる液体樹脂を凝固させ、プラットフォームまたは既に凝固した他の物体の上に堆積させる。トランスデューサーはあらかじめ決められた経路に沿って移動し、ピクセル単位で目的の製品を作り上げる。超音波の周波数が持続する時間と使用材料の粘度を調整することで、微細構造のパラメーターを操作できる。

このようにして、DSPは、既存の技術では作れない、事前に設計された複雑な形状を1兆分の1秒しか持続しない極端な高温と高圧により作り出すことができる。

DSPには汎用性があり、医療機器やバイオセンサーなどを作るためのマイクロ流体力学(マイクロフルイディクス)、あるいは航空宇宙工学のように、非常に特殊で緻密な装置を必要とする産業分野に利益をもたらすと考えられるという。超音波は金属製のシェルなど不透明な表面を突き抜けて通過するため、航空機の機体の奥深くにある部品の修理も可能になる。さらに、人間や動物の体内で直接造形するという医療分野への応用の可能性もある。

今回の研究で、ポリマーやセラミックなど多様な材料をプリントできることを証明した研究チームは、今後、ポリマーと金属の複合材料に挑戦し、最終的にはこの方法で金属を造形できるようにしたいとしている。

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