米ロチェスター大、室温領域での超伝導に成功――260万気圧、14℃で実現

ダイヤモンドアンビルセルにおける超高圧下で生成した炭素質水素化硫黄の金属固体が、約267GPa(260万気圧)の圧力下で14℃において超伝導を示すことが発見された。

米国ロチェスター大学の研究チームが、世界初となる室温領域での超伝導実現を報告した。ダイヤモンドアンビルセルを使用した超高圧下で生成した炭素質水素化硫黄の金属固体が、約267GPa(260万気圧)の圧力下で14℃において超伝導を示すというもので、研究成果が2020年10月14日の『Nature誌』に公開され、世界中で反響を呼んでいる。

ただし、開発された材料の正確な成分や構造に未だ不明な点があるとの指摘があるとともに、超高圧条件が必要であるので実用化には遠く、実施すべき研究課題が多く残されているという認識がある一方、1980年代に一大研究ブームを引き起こしたセラミック系高温超伝導の時代から進んで、新たな展開をもたらす研究方向を切り拓くという期待もある。

マイナス269℃の超低温で水銀の電気抵抗がゼロになる超伝導現象は、1911年に発見された。その後、鉛系やニオブ系合金などにおいても同様の現象が確認されるとともに、超伝導体が磁界を反発するマイスナー効果や、超高速スイッチングの可能性を秘めるジョセフソン効果などの研究が進んだ。徐々に応用開発も進み、1980年代にはNbTi合金を用いた超伝導磁石による医療用MRIなどが実用化している。更に1986年に、従来よりも高温のマイナス200℃からマイナス140℃で超伝導を示すペロブスカイト系セラミックスが発見され、医療用脳磁計などの小型SQUID磁気センサーの開発が進められた。

だが、超伝導に関しては、大規模な実用化にまで発展していないのが実情であり、その最大の理由はセラミックス系も含めて、超伝導を発現する極低温への冷却技術が高コストであることにある。そのため、少しでも常温に近い温度で超伝導を発現する材料を開発することが、研究者の「見果てぬ夢」になって久しい。常温超伝導材料が開発されれば、送電ロスのない電力網、磁気浮上電車、医療イメージング、高速エレクトロニクスなどが低コストで実現され、社会経済に与える影響は極めて大きい。

こうした背景のもと、2015年にマックス・プランク研究所が、約155GPa(150万気圧)の圧力下で生成した硫黄水素化物が、マイナス70℃において超伝導を示すことを発見した。既に、固体金属水素が高温超伝導実現に必要な条件を備え、超高圧下で生成する固体水素化物が高温超伝導を示す可能性があることが理論的に予想されていた。

今回ロチェスター大学の研究チームは、硫黄水素化物に第三の元素、炭素を加えることにより、臨界温度を常温まで高める常温超伝導の開発にチャレンジした。超高圧を実現できるダイヤモンドアンビルセルに、炭素と水素、硫黄の有機系混合物を装入し、超高圧下でレーザー照射して光化学反応を誘起し、炭素質水素化硫黄の結晶を生成した。電気抵抗測定の結果、約267GPa(260万気圧)の圧力下で、14℃において電気抵抗がゼロになることが明らかになった。その他、マイスナー効果が存在することも判った。

今後、研究チームは、超高圧条件が前提のままでは実用化は困難との認識のもと、硫黄水素化物に加える第三、第四の元素について更に探索して、製造および超伝導性発現に必要な圧力を低減する手法を検討する。

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