- 2021-3-17
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- Fatima Ebrahimi, Journal of Plasma Physics, プラズマスラスター, プラズモイド(磁気の塊), プリンストン大学プラズマ物理研究所(PPPL), 学術, 磁気リコネクション(再結合), 米エネルギー省(DOE)
米エネルギー省(DOE)管轄のプリンストン大学プラズマ物理研究所(PPPL)の物理学者は、従来よりも高速に宇宙空間を航行できる推進システムのコンセプトを発表した。磁場を利用して粒子を加速させることで、プラズマスラスターなど従来のシステムよりも10倍速い噴射速度が可能で、火星や外惑星に従来より短期間で到達できると期待できる。研究結果は、2020年12月21日付けの『Journal of Plasma Physics』に掲載されている。
現在、電場を利用して粒子を加速、噴出して推進するプラズマスラスターは、比推力が小さく、速度があまり出ない。今回、PPPLのFatima Ebrahimi主任研究員は、「磁気リコネクション(再結合)」とその際に生じる「プラズモイド(磁気の塊)」を利用することを考えた。
磁気リコネクションとは、磁力線がつなぎ変わりエネルギーを解放する現象で、太陽フレアやオーロラなど宇宙の至る所で起こるほか、人工的な核融合炉でも発生する。Ebrahimi氏は、車の排気ガスと核融合装置で生じる高速排出粒子との類似性を考えているときにアイデアを思い付き、「今回の研究は、過去の核融合研究にインスパイアされたもので、プラズモイドと磁気リコネクションを宇宙空間での推進に利用するという考えは初めてだ」と話している。
Ebrahimi氏が発表したスラスターは、これまでのスラスターと異なる点がいくつかある。まず、推力は磁場の強さの2乗に比例しているため、磁場の強さを変えれば、「つまみを回すように」速度を微調整することができる。シミュレーションでは、排出速度を秒速20~500kmまで制御できることを確認している。
次にこのスラスターでは、プラズマ粒子のほかにプラズモイドを放出することで推力を得る。Ebrahimi氏によると、プラズモイドを組み込んだスラスターは、今のところ他にはないという。
さらに、プラズマ化できる原子の選択肢が広い。現在のスラスターは電場を利用するため、キセノンのような重い原子が必要だが、磁場を利用している新しいスラスターは軽い原子でも重い原子でも利用可能で、目的に応じて選択できる。
Ebrahimi氏は「化学ロケットエンジンの比推力は非常に低く、速度を上げるのに時間がかかるため、長距離の宇宙飛行は数カ月もしくは数年かかっている。だが、磁気リコネクションをベースにスラスターを作製すれば、短期間で長距離のミッションを完遂できるかもしれない」と話し、「次のステップはプロトタイプを作ることだ」と、今後に意欲を見せている。
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