- 2021-4-16
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- 3D LiDARイメージングシステム, CMOS電子回路, Nature, Pointcloud, Remus Nicolaescu, ToF(Time of Flight)方式, サウサンプトン大学, シリコンフォトニック部品, ドローン, ピクセル(画素), ヘテロダイン検出, 周波数変調連続波(Frequency-Modulated Continuous-Wave:FMCW)方式, 学術, 拡張現実(AR), 焦点面アレイ(Focal Plane Array:FPA), 自動運転車, 顔認識ソフトウェア, 高周波(RF)CMOSエレクトロニクス
英サウサンプトン大学は、2021年2月10日、米Pointcloudと共同で、3次元物体をより高精度で認識でき、低コストで実現するコンパクトな3D LiDARイメージングシステムを開発したと発表した。このシステムは、シリコンフォトニック部品とCMOS電子回路を1つのマイクロチップに搭載した統合システムだ。研究成果は、『Nature』に2021年2月10日付で発表されている。
3D LiDARによる正確なイメージングやマッピングは広く利用されており、利用例としては自動運転車での「目」の役割や、顔認識ソフトウェアやドローンなどが挙げられる。しかし、サイズを小さくできないことやコスト面などが課題として指摘されており、限られた範囲でしか商用利用されていない状態だという。
研究者らは、モノリシック集積化技術を利用して高周波(RF)CMOSエレクトロニクスを備えたシリコンフォトニクスプロセス上にLiDARシステムを実装した。これまではピクセル(画素)に直接、電気的接続を施すことが難しく、従来のシステムは20画素未満しか実現していなかったが、今回開発したシステムでは512画素から成る大規模な2次元コヒーレント検出アレイを達成したという。
開発された3D LiDARでは、量子ノイズ限界で動作する小型の光ヘテロダイン検出器から成る焦点面アレイ(Focal Plane Array:FPA)を利用している。一般的にLiDARで使われている、パルス光を使用して反射光の遅延時間から距離を計測するToF(Time of Flight)方式とは違い、線形チャープレーザーを使用する周波数変調連続波(Frequency-Modulated Continuous-Wave:FMCW)方式のLiDARだ。対象物から受信した散乱光は、ヘテロダイン検出器で局部発振器の光と混合され、対象物までの往復移動時間、つまり対象物までの距離に比例したビート周波数を生成する仕組みだ。
FMCW方式LiDARではヘテロダイン検出を利用しているが、ヘテロダイン検出は太陽光や近くにあるLiDARシステムからの干渉を受けないという利点がある。また、受信した光のドップラーシフトによって対象物の速度を直接測定するなど、ToF方式に勝る利点がいくつかある。
今回、低コストかつコンパクトな3D LiDAR作製に成功し、その性能は既存の3D LiDARに匹敵するという。プロトタイプの実証テストでは、出力4mWで、反射率30%の75m離れた位置にある対象物に対して測定精度3.1mmを示した。
研究チームは、さらに画素アレイを拡張しビームステアリング技術を進展させて、開発したシステムを実用化に適したものにして性能を向上できるように研究を進めているところだという。Pointcloud CEOであるRemus Nicolaescu氏は「高性能と低コスト製造を同時に実現することは、自律制御や拡張現実(AR)における既存の用途を発展させるだけでなく、高精度の深度を必要とする産業用/民生用デジタルツインアプリケーション、速度の高精度測定が必要となるバイタルサインなどの遠隔モニタリングによる予防医療など新しい道も切り開くでしょう」と語っている。