- 2021-9-16
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- Advanced Materials, Chao Wang, EPA(米国環境保護庁), アルゴンヌ国立研究所, グラフェン, スマートフィルター, マサチューセッツ工科大学(MIT), 国立交通大学, 学術, 東京大学, 水酸化ウラン, 酸化グラフェンフォーム(3D-FrGOF), 重金属, 飲料水
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、グラフェンを利用して飲料水から有害な重金属を効率的に除去する方法を考案した。繰り返し利用可能な酸化グラフェンフォームを開発し、電解析出法を利用して水に含まれるウランの結晶化に成功した。研究結果は、2021年8月4日付けの『Advanced Materials』に掲載されている。研究には、アルゴンヌ国立研究所、台湾の国立交通大学、東京大学も参加している。
重金属のウランは、少量でも人体にとっては有害で、ガンの原因となり、腎臓機能や神経行動の異常につながる。それは自然の岩石をはじめ、鉱山や核廃棄物処分場から、飲料用の水源に流れ込む可能性がある。
3年前から、採掘現場からの重金属を環境的に浄化できる効果的な方法を探求している研究チームは、リチウム硫黄電池に使うグラフェンフォームに着目した。「このグラフェンフォームは、特定の化学種を表面に引き付けるというユニークな物理特性を持っていた。そのため、グラフェンフォームの配位子はウランと上手く作用するだろうと考えた」と、論文の共同第一著者であるChao Wang氏は語る。当初のグラフェンフォームは非常に脆かったため、強度と耐久性を高める必要があった。
試行錯誤の結果、数時間で大量の飲料水をろ過できるプロセスが誕生した。酸化グラフェンフォーム(3D-FrGOF)を作用電極として水を電気分解すると、水素が生成し、局所的にpHが増加する。すると、ウランイオンが3D-FrGOF表面に引き付けられ、これまで見たことのない結晶構造の水酸化ウランを形成した。魚のウロコに似た結晶は、逆電圧を印加すれば簡単に剥がれることも分かった。
ろ過工程はシンプルで高効率、そしてクリーンだ。3D-FrGOFの実験では、自重の約4倍、1gあたり4560mgのウランを回収できた。これは、他の手法よりも大幅に高い数値だという。再利用性も高く、抽出効率を失うことなく7サイクル使用できた。
また、海水でも効果を発揮し、海水のウラン濃度を3ppmから19.9ppbに減らすことができた。これはEPA(米国環境保護庁)が定めるウラン濃度30ppbを下回り、海水中の他のイオンがろ過工程には影響しないことを示している。
研究チームはウランだけでなく、鉛、水銀、カドミウムといった他の重金属向けフィルターも検討している。将来、クリーンエネルギーを使って飲料水を電気分解し、有害金属の除去だけでなく、フィルター再生時期や水質結果を通知するスマートフィルターが登場するかもしれない。