木の床の上を歩くと発電する摩擦帯電型ナノ発電機――木材に機能を付与し発電効率が80倍に

人間が木の床の上を歩くと発電する、機能性木材で作られた摩擦帯電型ナノ発電機(triboelectric nanogenerator: TENG)が発表された。使用木材にシリコーンコーティングと埋め込み型のナノ結晶を組み合わせて改良したところ、天然木材を使用した場合と比較して発電効率が80倍のデバイスとなり、LED電球の点灯や小型電子機器の駆動が可能になった。この研究はスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)を中心とした研究チームによるもので、研究結果は2021年9月1日付で『Matter』に掲載された。

研究チームは、まず2枚の機能性木材を電極で挟み、木材をナノ発電機に作り変えた。木片は踏まれると周期的な接触と分離によって帯電するようになるが、この現象は摩擦帯電と呼ばれる。摩擦により電子はある物体から別の物体へと移動することができ、その結果、電気を発生させる。

しかし、木でナノ発電機を作るには1つ問題がある。木材は、基本的に摩擦に対してニュートラルであり、電子を獲得したり失ったりする性質があまりないため、その帯電性能には限界がある。

そこで、研究チームは木材の帯電特性を高めるため、接触すると電子を獲得するシリコーンであるポリジメチルシロキサン(PDMS)で一方の木材をコーティングし、もう一方の木材には、ゼオライト様イミダゾレート構造体でZIF-8と呼ばれるナノ結晶をその場で成長させて機能を付与した。金属イオンと有機配位子が配位結合する多孔性錯体であるZIF-8は、電子を失う傾向が強い。また、さまざまな種類の木材を用いて実験を行い、木材の種類や切断方向が、コーティングのより良い足場として機能し、摩擦電気特性に影響を与えるかどうかを調べた。

その結果、ヨーロッパで一般的な建築用木材であるスプルースを放射状に切断したもので作った摩擦帯電型電ナノ発電機の性能が最も優れていることが分かった。この方法で作製された摩擦帯電型ナノ発電機(サイズ:35×20×1mm)は性能が向上しており、天然木材を使用した場合より80倍超の電力を生成した。このデバイスは、定常的な力に対しても最大1500回まで安定して発電した。

研究チームは、サイズ100×80×1mmの木製ナノ発電機を6つ組み合わせた木造床のプロトタイプを作製し、家庭用LEDランプや電卓を駆動させるのに十分な電気エネルギーを生成できることを発見した。このプロトタイプの上で大人が足踏みすると、足踏み動作を電気に変換し、電球を点灯させることに成功した。

今回の研究の目的は、比較的環境に優しい方法で木材を加工して摩擦帯電特性を持たせることができる可能性を実証することだった。スプルースは安価で入手しやすく、好都合な機械的特性を持っている。機能を付与するというアプローチは非常にシンプルであり、産業レベルでの拡張が可能だ。研究チームの次のステップは、より環境に優しく、より施しやすい化学コーティングでナノ発電機をさらに最適化することだという。

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