電子部品不要でGHz信号を得る――スピントロニクスを利用した新しい周波数逓倍方法を発見

Foto: Uni Halle / Markus Scholz

マルティンルター大学ハレヴィッテンベルク(MLU)の研究チームは、特別な回路が無くても周波数を逓倍できる方法を発見した。エネルギー効率を高め、コンピューターやスマートフォンの部品点数を削減できる可能性がある。研究結果は2022年3月10日付けの『Science』に掲載されている。

デジタル技術やデジタルデバイスは既に世界の電力消費量の約10%を占めており、その傾向は急速に進んでいる。「情報処理向けに、より効率的な部品を開発する必要がある」と、Georg Woltersdorf教授は語る。

今日のデバイスは、駆動に必要な高周波のGHz信号を生成するため、非線形回路を使用し、周波数を逓倍している。研究チームは、こうした電子部品を使わなくても、一般的な磁性材料で同じことができると発見した。

研究チームは、電磁波を伝達する伝送路であるコプレーナ導波路からの電磁波によって位相が揃ったコヒーレント励起されたNi-Fe薄膜の磁化ダイナミクスを、NV(窒素-空孔)中心による磁気測定と時間分解磁気光学カー効果を使って調べたところ、低周波のMHz源によって磁気励起が起こり、励起周波数の整数倍の成分がいくつか発生していた。これらは範囲にして6オクターブをカバーし、数GHzまで達する。「ちょうど、ピアノの一番低い音を弾いたら、それに対応するより高い音域の倍音が聞こえるようなものだ」とWoltersdorf教授は説明する。

こうした周波数逓倍の驚くべき効果は、ミクロンレベルにおける動的磁化の同期スイッチングで説明できる。「さまざまな領域が同時に切り替わるのではなく、ドミノが倒れるように隣接した領域がきっかけとなっている」と、論文の筆頭著者であるChris Körner氏は語る。

現在のマイクロエレクトロニクスは、情報のキャリアとして電荷を利用するが、電荷輸送は熱を放出し、そのために大量のエネルギーを必要とするという大きな欠点を抱えている。そこで、エネルギー効率の大幅な改善に向けて、電子の電荷に加えてスピンを利用するスピントロニクスが、エネルギー問題を解決する有望なソリューションとして期待されている。

今回新しく発見された効果は、将来のデジタル技術においてエネルギー効率の向上に役立つ可能性があると同時に、全磁気ミキサーやオンチップのGHz源など、GHz領域における省スペースで効率的な周波数源としての利用が期待される。

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