日立金属は2022年5月19日、リチウムイオン電池(LIB)の正極材を製造する際、材料のコバルト(Co)使用量を削減しても、LIBの長寿命化と高容量化を両立できる技術を開発したと発表した。これによって、Co原料由来の温室効果ガスの排出量削減が可能となる。
同社によると、新たに開発したLIB用正極材は、粉末冶金技術を駆使した独自の固相反応法を用いて合成される。組織制御技術によって、充放電サイクルにともなう結晶構造の劣化の抑制にも成功し、一般的には80%程度だったニッケル(Ni)の含有量を90%まで高めて、高容量化しても電池寿命を維持できるようになった。
また、結晶構造を安定化させる特性もあり、正極材に必要不可欠なCoの含有量を、同社の従来品に比べて8割削減できた。固相反応法は水溶性物質以外も使用できることから、最初の化学反応に必要な出発原料の選択肢も広がった。これによって、原材料由来の温室効果ガス排出量を削減することも可能になる。
今回の技術は、5月25日から、横浜市のパシフィコ横浜で開催される「人とくるまのテクノロジー展2022」に出展する。
LIBは、エネルギー密度が高く、小型軽量化が可能なため、携帯機器やハイブリッド自動車、電気自動車など幅広い分野で使われている。特に今後は電気自動車向けの需要拡大が予想されるが、電気自動車の航続距離と総走行距離を伸ばすには、LIBの高容量化と長寿命化を両立する正極材が欠かせない。
しかし、これまでは高容量で長寿命の正極材を実現できる材料がなく、正極材の主要成分となるCoは希少金属(レアメタル)の一つで、温室効果ガスの排出量が極めて多いという欠点があった。今回の製造技術は、こうした課題の解決につながる可能性があり、同社では今後、正極材の量産や新たなLIBの開発へ展開させていくとしている。