- 2022-9-14
- 化学・素材系, 技術ニュース, 海外ニュース
- Álvaro Romero-Calvo, Hanspeter Schaub, ISS(国際宇宙ステーション), Katharina Brinkert, npj Microgravity, ウォーリック大学, コロラド大学ボルダー校, ネオジム磁石, ベルリン自由大学, 学術, 応用宇宙技術・微小重力センター(ZARM), 水, 水素, 酸素
英ウォーリック大学をはじめとする国際研究チームは、ネオジム磁石を使って、無重力に近い環境で酸素を抽出する手法を提案した。ISS(国際宇宙ステーション)や、月や火星の有人探査に利用できる可能性がある。研究結果は、2022年8月8日付けで『npj Microgravity』に掲載されている。
化学の授業で、水を電気分解して水素と酸素に分解し、試験管に気体を集めるという実験をした人も多いだろう。この場合、水中の電極表面に発生した気泡は、浮力によって試験管の上部に集まるため、液体と気体が簡単に分離できる。
ISSでも、電気分解で酸素を製造しているが、微小重力下では気泡が水中に留まるため、気体を強制的に取り出す必要がある。NASAは、遠心分離機を利用して気液分離をしているが、こうした酸素製造装置は大型で重く、消費電力も多いため、最近の研究では有人火星探査には適さないと結論付けている。
英ウォーリック大学、米コロラド大学ボルダー校、独ベルリン自由大学の研究チームは、磁性を利用して酸素を分離できることを、ドイツの応用宇宙技術・微小重力センター(ZARM)の落下塔を使った微小重力環境下で実証した。「電力は不要。遠心分離機も不要。それどころか、完全に受動的なシステムだ」と、論文の筆頭著者である、コロラド大学のÁlvaro Romero-Calvo氏は語る。
実験では、超純水や硫酸マンガンなどの溶液が入ったシリンジ側面にネオジム磁石を取り付け、落下時に気泡をシリンジ内に注入して、その挙動を確認した。シンプルな構成ながら、磁気浮力と呼ばれる現象によって、気泡は落下中にある軌道を描いていた。
この結果に、実験の参加者たちは驚いていたという。Romero-Calvo氏は、既存方式の補完として、磁気を使った相分離は重要になると考えており、論文では、シリンジの壁と気泡、複数の気泡の磁気相互作用についても報告している。
ウォーリック大学のKatharina Brinkert博士は、「これらの効果は、長期間の宇宙ミッションなど、相分離システムの開発へ多大な影響を与える。浮力がほぼない場合でも、例えば、水中(光)電解槽システムにおいて、効果的な酸素や水素の生成が可能だと示唆している」と語る。
コロラド大学のHanspeter Schaub教授も「このコンセプトが無重力の宇宙環境で機能するという具体的証拠を得られた」としている。より効率的に気泡を電極表面から分離し、磁気回路を使用して受動的に収集するシステムを設計できる可能性がある。