東京大学物性研究所、高輝度光科学研究センターなどの研究グループは2021年9月10日、X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAを使い、鉄系超伝導体BaFe2As2における結晶構造の超高速変化を直接観測することに成功したと発表した。光を照射してから30ピコ秒(1兆分の1秒)後に、瞬間的に0.1GPaという巨大な力が結晶表面に加わって結晶構造が変化することを世界で初めて確認した。
高温超伝導を実現する可能性があると期待されている鉄系超伝導体は、圧力などによるわずかな結晶構造変化で、超伝導転移温度が急激に上昇することが分かっている。このため、研究グループは、従来のダイヤモンド対に代えて「光」を使って超高速な応力を印加し、結晶構造の変化を観測した。
研究グループは数GPaの圧力を加えると転移温度が顕著に上昇する鉄系超伝導体BaFe2As2を測定試料に選び、SACLAでX線回折法の時間分解測定を行って、光照射後の非平衡状態における結晶構造を直接観測した。
最初にパルス状の光をBaFe2As2に照射し、その後、SACLAを使って、高輝度で短パルス化されたX線によるX線回折測定を行う。これによって、光照射後の結晶構造をスナップショットとして観測できる。この方法を用いると、結晶からのX線回折の角度変化を観測することで光照射による結晶構造の伸縮を求められるほか、照射する光とX線の時間差を変えながら測定すれば、結晶構造の変化の様子をとらえられる。
この結果、光を照射した約30ピコ秒後に、いったん結晶構造が収縮し、さらに約60ピコ秒後に伸長する様子が確認できた。また、照射する光の強度に応じて収縮は増大し、このとき、結晶には最大で約0.1GPaに相当する力がかかっていた。
この研究結果は、『Physical Review Research』誌に2021年9月8日付で公開された。
研究グループは、今回の成果について、将来の超高速スイッチング素子や量子情報素子に対する演算処理方法として応用できる可能性があるとしている。