産業技術総合研究所(産総研)は2022年9月30日、放熱性や室温成形性、耐食性に優れたマグネシウム合金を新たに開発したと発表した。
一般に流通している従来の汎用マグネシウム合金は、軽量でしかも機械的特性や耐食性に優れるために、軽量性が特に求められるノート型PCや携帯電話などの家電製品や、自動車部品などを中心に、アルミニウム合金からの置き換えが進んできている。しかし汎用マグネシウム合金には、室温での成形性が劣るという欠点があるために、適用範囲が限定的にならざるを得なかった。また、数パーセント程度の元素を添加するだけで放熱性などの機能性が大きく低下してしまうために、わずかな量の元素の添加のみで成形性や耐食性を改善する技術が求められていた。
今回の研究では、マグネシウムに0.1wt%未満の微量の銅とカルシウムを添加すれば材料の特性が大きく改善することを発見した。
具体的には、まず99.9wt%以上の純度の金属マグネシウムに銅とカルシウムを添加した鋳造材を作製。これを圧延成形してマグネシウム合金板材(Mg-Cu-Ca合金)を作製した。
異なる添加濃度のMg-Cu-Ca合金を評価したところ、銅0.03wt%を添加したマグネシウム合金板材にカルシウムを0.05wt%添加した合金において、室内成形性を表すエリクセン値が著しく向上。汎用マグネシウム合金の値を大きく上回り、汎用アルミニウム合金に迫る値を示した。
また、耐食性を表す腐食速度も大きく低下し、汎用アルミニウム合金よりも低い値を示した。この耐食性の向上は、銅とカルシウムの添加によって板材表面に緻密な酸化物が形成されることで、腐食の進行を抑えた結果だと考えられている。さらに、熱伝導性も汎用マグネシウム合金の約2倍で、汎用アルミニウム合金にも迫る値を示した。
室温成形性が改善した理由については、銅とカルシウムの添加によって合金材料において発生している結晶の垂直方向への配向が抑制され、大きく傾いたことによるものだと考えられている。
今回開発したマグネシウム合金板材は、熱伝導率、室温成形性、耐食性に優れるため、輸送機器や電子機器の筐体など高い放熱性が必要な機器の製造に役立つという。また添加物の量が少なく、カルシウムや銅が比較的安価なため、低コストで高い機能性を持つマグネシウム材料を製造することも可能になるという。