- 2023-2-10
- 化学・素材系, 技術ニュース
- センシングデバイス, レーザー光源, 九州大学, 光デバイス, 有機マイクロ球体固体レーザー, 液体レーザーデバイス, 研究, 筑波大学, 筑波大学数理物質系
筑波大学数理物質系の山本洋平教授らは2023年2月9日、九州大学と共同で、大気中で安定して働く100%液体でできたレーザー光源を開発したと発表した。新たな柔らかい光デバイスの実現につながることが期待できる。
電気や光を研究する分野では、曲げたり折ったりできる柔らかいデバイスが注目を集めているが、こうした柔らかいデバイスの素材に従来から主に利用されてきたプラスチックは、その柔らかさに限界があった。この限界を打ち破るための有望な素材として、液体に注目が集まっており、すでにレーザーを構成する要素の一部に液体を利用したデバイスが存在している。
しかし、レーザーを生み出す容器が硬い固体でできており、柔らかさの点で課題があった。レーザーを生み出す容器も液体で作ろうとする試みもあるが、大気中で安定に利用できる真球形状の微小な液滴の作製が困難であり、実現には至っていなかった。そこで、大気中で安定して働く100%液体でできたレーザー光源を開発した。
研究では、フッ素化した微粒子を塗布した基板上へ、不揮発性のイオン液体のうち比較的表面張力が大きなイミダゾール塩を滴下した。過去の研究と同様に、通常の滴下手法では半球状の液滴しか形成しなかったため、滴下する際の水滴の落下速度を抑え、かつ液滴を十分に小さくした状態で滴下したところ、真球に近い形状の液滴を生成した。
実験から明らかになった接触角の分散と理論的な考察を合わせて、このとき実現される接触角が準安定状態であることがわかった。得られた液滴は、大気中でも1カ月以上にわたって安定し、蒸発が検知できないほど抑えられていたことに加え、基板に強く吸着し、落下や移動が生じなかった。
この液滴のレーザー光源としての機能を調べたところ、最も優れた有機マイクロ球体固体レーザーと同等のしきい値でレーザー発振した。液滴は、ごく微量な空気の流れのような極めて弱い力で変形し、それに伴ってレーザー発振波長が変化し、変化量は風速で変化させることができる。また、実験結果と、風速による液滴変形の計算結果、変形によるレーザー波長変化の計算結果が符合する。
さらに、同様の滴下方法をインクジェットプリンターで実現する手法を開発。これにより、素早く大量に一定の大きさの液滴を決まった位置に作製できるため、多数の液滴からなるアレイの作製ができる。
開発した手法は、安定な液体レーザーデバイスを構築できる上、変形や外部刺激応答性といった液体本来の性質を十分に発揮できる。この性質は、レーザー光源およびセンシングデバイスとして有用で、新たな柔らかい光デバイスの実現につながることが期待できる。