- 2023-3-17
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- ACS Central Science, PDA(Polydopamine:ポリドーパミン), PNIPAm(ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)), オフグリット, ハイドロゲル, プリンストン大学, ポリマー, 学術, 次世代太陽熱吸収ゲル技術, 水
現在、世界では20億人以上の人々が安全に管理された飲み水を利用することができない状況にあると言われている。プリンストン大学の研究チームは、世界中の人々に安全な水を提供できる可能性がある、次世代太陽光吸収ゲル技術を開発した。このゲルはスポンジのような構造をしており、重金属や油、マイクロプラスチック、細菌などで汚染された水を、太陽光を用いてろ過する。研究成果は、『ACS Central Science』誌に2023年2月8日付で公開されている。
今回開発したゲル技術は、2021年に開発された第一世代の太陽光吸収ゲル技術を改良したものだ。ろ過効率は第一世代の約4倍で、厚さ1cmのゲル1m2で1ガロン(約4L)以上の水をわずか10分間で浄化できる。この太陽光吸収ゲルを使えば、電力設備のないオフグリッド地域の人々にも日常的に必要な量の水を供給できる可能性がある。
スポンジのように見えるハイドロゲルは「PNIPAm(ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド))」と呼ばれるポリマーで、33℃以下ではスポンジのように水を吸収し、太陽光で33℃超に加熱すると水を放出する。ゲルにPDA(Polydopamine:ポリドーパミン)などのポリマーを添加することで、重金属や油などの汚染物質をろ過することが可能だ。使い方は簡単で、湖など汚れた水の中に太陽光吸収ゲルを入れて水分を吸収した後、太陽光の下に置くだけで浄水できる。昼の太陽光の下では、わずか10分で吸収した水の約70%を回収できるという。
第一世代からの改良点は、水の輸送能を強化するハイドロゲルの構造だ。第一世代も第二世代もハイドロゲルにPNIPAmを用いているが、第二世代では水とエチレングリコールの混合液からポリマーを合成することで、ゲルがより相互に結合したヘチマのような繊維状の構造をとっている。従来のハイドロゲルはハニカム構造が多いが、この構造は壁があるため水の輸送を妨げてしまう。
また、水の輸送能以外も改良されている。例えば、PSBMA(ポリ(スルホベタインメタクリレート))というポリマーをゲル表面に加えて、太陽光吸収ゲルに防汚性を持たせた。PSBMAは水中の汚染物質の効率的なろ過に役立つだけでなく、油や細菌をはじくので汚れにくくなる。ゲル表面に蓄積した汚れによるろ過効率の低下を軽減できるのだ。
研究チームは、将来的にこの太陽光吸収ゲルが家庭レベルの浄水装置の選択肢となり、オフグリッドで安全な水を使用できるようになると信じている。現在は、家庭用にスケールアップするためのプロトタイプを作成中だ。