- 2021-12-16
- 技術ニュース, 電気・電子系
- 500Wh/kg級リチウム空気電池, ALCA-SPRING, ALCA次世代蓄電池, NIMS, NIMS-SoftBank先端技術開発センター, ソフトバンク, リチウム空気電池, 二次電池, 物質・材料研究機構, 研究, 高エネルギー密度リチウム空気電池セル作製技術
物質・材料研究機構(NIMS)は2021年12月15日、ソフトバンクと共同で、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度(Wh/kg)を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池を開発したと発表した。室温での充放電反応を実現し、エネルギー密度とサイクル数の観点で世界最高レベルであることを示した。
リチウム空気電池は、理論重量エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍に達する「究極の二次電池」であり、軽くて容量が大きいことから、ドローンや電気自動車、家庭用蓄電システムまで幅広い分野への応用が期待されている。
科学技術振興機構 (JST) のプロジェクトであるALCA次世代蓄電池(以下、ALCA-SPRING)の支援のもと基礎研究を進めてきたNIMSは、2018年にソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立。携帯電話基地局やIoT、HAPS(High Altitude Platform Station)などに向けて実用化を目指し、研究してきた。
理論的には非常に高いエネルギー密度を示すリチウム空気電池だが、従来のリチウム空気電池の特性評価で一般的に使われてきた電池においては、電池重量の割合の多くをセパレータや電解液といった電池反応に直接関与しない材料が占めており、実際に高いエネルギー密度のリチウム空気電池を作成/評価した例は限られていた。
リチウム空気電池は、正極(酸素極)、セパレータ+電解液、負極(金属リチウム)を積層した構造で、放電反応では負極で金属リチウムが電解液に溶出し、正極で酸素と反応して過酸化リチウムが析出する。過酸化リチウムの析出量が蓄電容量となることから、正極のカーボン材料は高空隙率/高比表面積を有する材料が望ましいと考えられる。
充電反応は放電反応とは逆で、正極の過酸化リチウムが分解して酸素を放出、負極では金属リチウムが析出する。この際、正極/負極双方で高い可逆性で反応が進行するような電解液材料が求められる。
ALCA-SPRINGでの研究により、リチウム空気電池の持つ高いポテンシャルを最大限に引き出す独自材料を開発してきた研究チームは今回、これら材料群に、NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発した高エネルギー密度リチウム空気電池セル作製技術を適用。その結果、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池の室温での充放電反応に世界で初めて成功した。
さらに、世界中で報告されているリチウム空気電池の性能を網羅的に調査。定量的かつ客観的に比較したところ、電池のエネルギー密度を算出することに成功した。その結果、開発したリチウム空気電池は、エネルギー密度とサイクル数の観点で世界最高レベルであることが明らかになった。
今後は、500Wh/kg級リチウム空気電池に、現在開発している改良型材料を搭載することで、大幅なサイクル寿命の増加を図り、NIMS-SoftBank先端技術開発センターでのリチウム空気電池の早期実用化につなげる。