記憶力が向上する効果あり――「ヤマブシタケ」から神経細胞を成長させる物質を発見

豪クイーンズランド大学は2023年2月10日、食用キノコの「ヤマブシタケ(学名:Hericium erinaceus)」から、神経の成長を促進し、記憶力を向上する活性化合物を発見したと発表した。アルツハイマーなど、神経変性疾患による認知症の治療に応用できる可能性があるという。

ヤマブシタケは英語圏では「lion’s mane mushroom(ライオンのたてがみキノコ)」と呼ばれ、日本や中国、北米などに広く分布する。白くフサフサとしたインパクトある見た目とは裏腹に、味には癖がなく、特に中国では古くから宮廷料理や薬用として用いられてきた。認知症を改善する効果が臨床実験で認められており、最近では生のキノコに加え、粉末や錠剤などのサプリメントまでさまざまな形で販売されている。こうした記憶にまつわるヤマブシタケの効能に関しては、1991年に発見された天然由来としては初の、神経成長因子(NGF)の合成を促進する物質であるヘリセノン類の関与が示唆されていた。

今回、クイーンズランド大学の研究者らはそのメカニズムを解明するため、ヤマブシタケから新たなヘリセノン関連化合物2種を精製および同定。これらを培養脳細胞に投与すると、神経突起の伸長および分岐が増加することが判明し、さらに超解像顕微鏡により、成長円錐のサイズが拡大することも確認できた。成長円錐は脳細胞が環境を感知し、ほかのニューロンと接続するために重要になるという。また、迷路を用いたマウスの行動実験でも、空間記憶を強化する効果があることが証明された。

70年以上前に最初の神経栄養因子(ニューロトロフィン)であるNGFが発見されて以来、神経突起の再生を促進し、神経細胞の変性を防止または元に戻せることが数えきれないほどの研究で実証されてきた。しかしながら、NGF含めニューロトロフィンは経口摂取での効果が非常に低いことなどから、実際の治療への応用は限られており、有益な使用方法は今日まで確立されていない。同大学は、今回発見された物質はNGFに働きかける天然由来の活性化合物であり、記憶力や認知機能低下に対する持続可能な治療の開発に希望をもたらすものだとしている。なお、研究の詳細は『Journal of Neurochemistry』に掲載されている。

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