原料は火星の砂とジャガイモ­­――火星での居住施設建設向けに「宇宙コンクリート」を開発

マンチェスター大学の研究チームが、結合剤としてセメントではなくジャガイモの澱粉を用い、火星や月の表面土壌を固めて、レンガ状の建設資材、宇宙コンクリート「StarCrete」を製造する手法を考案した。結合剤である澱粉は、宇宙飛行士用食糧の余剰分から容易に入手でき、レンガの主要原料である粘土や長石類を地球からロケット輸送する必要がないので、火星や月における長期居住施設を膨大なエネルギーを使用せずに低コストで建設できると期待している。研究成果が、2023年3月13日に『Open Engineering』誌に公開されている。

NASAは、月面での持続的な長期滞在と有人火星探査を目標とするアルテミス計画を推進している。2022年11月には無人飛行船アルテミス1号が月周回軌道に投入され、2024年には有人飛行船アルテミス2号が月を周回する予定だ。更に2025年以降には、有人飛行船アルテミス3号が月面着陸を計画している。だが、目標とする月面での長期滞在には、放射線遮蔽機能などを持つ堅牢な居住施設が必要であり、現状では地球から資材や機器を大量にロケット輸送しなければならないなど、膨大なコストとエネルギーを要する。このようなことから、月や火星に存在する天然資源を有効に活用して、必要なインフラを建設することが検討され、月面土壌から太陽電池や伝送線を製造する手法などが提案されている。

研究チームは、コンクリートやレンガなどの建設資材を、火星や月の土壌を用いて製造することにチャレンジしてきた。一般的なコンクリートは、砂利や砂などの骨材をセメントの水和反応により結合して製造されているが、研究チームは火星の土壌を模擬した材料を原料として、セメントに代わる結合剤として火星で容易に得られる材料を探索した。

まず、結合剤として宇宙飛行士の血液と尿を用いたところ、通常のコンクリートよりも高い圧縮強度を示したが、定期的な血液採取が必要で実現性に乏しいと判断した。その後、長期滞在では食糧としてジャガイモが使用されることに着目し、その澱粉を結合剤として用いることを試みた。同時に一般的な塩である塩化マグネシウムを少量添加した結果、通常のコンクリートの2倍以上に相当する72MPaの圧縮強度が得られ、月の土壌を模擬した場合には更に高い91MPaが得られた。また、曲げ強度についても、同等レベルを示すことも確認された。試算によれば、1袋(25kg)の乾燥ジャガイモは、213個のレンガに相当する0.5トンのStarCreteを製造するのに充分な澱粉を含んでいる。

研究チームは、開発技術の実用化を進めるスタートアップ企業DeakinBioを設立し、地球上での使用も追求している。セメントとコンクリートは製造プロセスにおいて、極めて高い焼成温度とエネルギーを必要とし、世界のCO2排出量の8%を発生させている。開発したStarCreteは、家庭用オーブンまたは電子レンジの温度レベルで製造できるので、エネルギーコストやCO2排出量を削減できる、と期待している。

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