電子源材料にhBNコーティングを施すことで、電子放出量が増加することを発見 東北大など

東北大学は2023年4月4日、日本大学生産工学部の研究グループ(研究当時は東北大学)とロスアラモス国立研究所、北京理工大学、日本原子力研究開発機構からなる共同研究チームが、電子源材料に六方晶系窒化ホウ素(hBN)をコーティングすることで電子放出量が増加することを発見したと発表した。

固体から電子を放出させて電子線を形成するにあたっては、仕事関数が低い六ホウ化ランタン(LaB6)が主に用いられている(仕事関数が低いほど、多くの電子を放出できる)。

清浄なLaB6表面の仕事関数はおよそ2.3eV。これよりも低い仕事関数の材料を開発できれば、さらに多くの電子を放出することが可能となる。

また、LaB6電子源を使用すると、残留ガスによって表面が徐々に酸化されてしまい、仕事関数の増加につながる。1900℃以上の高温加熱により仕事関数を再び低減できるものの、顕著に酸化が進行した場合は高温加熱でも回復しないことが課題となっていた。

同共同研究チームは今回、LaB6表面にhBNおよびグラフェンをコーティングし、光電子顕微鏡と光電子分光法を使用して、コーティング材料の種類によって仕事関数がどのように変化するかを調べた。

その結果、何もコーティングしていないLaB6表面と比較して、hBNコーティング表面では仕事関数が減少した。一方で、グラフェンコーティング表面では仕事関数が増加している。

また熱電子顕微鏡で観察したところ、hBNコーティングした表面が最も多い電子を放出していることも明らかになった。冒頭の画像は、hBNおよびグラフェンでコーティングしたLaB6表面の光電子顕微鏡像(PEEM)像および熱電子顕微鏡(TEEM)像だ。画像の明るい場所は、電子が多く放出されていることを示している。

次に、hBNコーティングによって仕事関数が減少する原因を調べるべく、第一原理計算によって電子密度を計算した。すると、グラフェン/LaB6では界面に内向き(固体内部方向)の双極子モーメントが発生する一方で、hBN/LaB6界面では外向き(固体表面方向)の双極子モーメントが生じることが判明した。

外向きの双極子モーメントでは、電子を固体外に押し出そうとする力が作用する。これにより仕事関数が減少することが判明した。

今回のモデルに基づく理想的な清浄LaB6表面の仕事関数は、hBNコーティングによって2.2eVから1.9eVに低下することがわかった。一方で、グラフェンコーティングでは3.44eVに増加している。

グラフェンおよび hBNコーティングによる仕事関数変調メカニズムの模式図。
(c)および(f)は、第一原理計算による電荷の再分配の様子を示している。

LaB6の仕事関数が2.2eVから1.9eVに低下した場合、動作温度(1500℃)における電子放出量が約7倍に増加することが予想される。あるいは、仕事関数2.2eVのLaB6電子源と同量の電子を放出する場合で、動作温度を1260℃に低下できる。

また、同メカニズムは表面が少しだけ酸化されているLaB6にも適用できることが判明した。大気中の酸素の影響でわずかに酸化されたLaB6を用いて、hBNコーティングによる仕事関数減少を確認している。

同研究グループは、酸化されていない清浄LaB6表面にhBNをコーティングする具体的な方法の開発を進める。LaB6電子源からの電子放出量が増加することで、明るい電子顕微鏡や高効率な電子線描画装置の開発、放射光施設の運転経費削減などに寄与することが期待される。

関連情報

電子源からの電子放出量を7倍に増やす表面コーティン… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

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