熱を運ぶ粒子「フォノン」の流れを解明 東大など研究グループ

東京大学は2023年4月20日、同大学生産技術研究所らの研究グループが、熱を運ぶフォノンの流体的な振る舞いによる熱輸送の効果を理論的に明確にし、同位体を除去した高純度グラファイトで熱伝導が増強されることを実験によって確認したと発表した。理論的には、室温でも同様の効果があると考えられ、スマートフォンやパソコン、LED、パワー半導体など電子機器の熱管理への応用が期待される。

モバイル機器などの電子機器で高密度化が進む中、高性能半導体から効率よく排熱する材料や技術は、製品の寿命や安全性を確保するうえで重要となっている。なかでも、金属よりも高い熱伝導率を持ち、軽量で安価なグラファイト材料が注目を集めている。

研究グループは、天然のグラファイトに含まれる同位体13Cを除去し、1.1%から0.02%まで低減したうえで、グラファイトの熱伝導率を10〜300Kの温度範囲で測定。その結果、30Kからフォノン間の相互作用が強くなり、フォノンポアズイユ流れが形成されることによって熱伝導が増強されはじめた。最も強い増強が観測された90Kでは、天然グラファイトに比べて2倍以上の増強が確認された。なお、フォノンは、固体中の原子や分子の振動の準粒子であり、半導体における熱伝導の主役である。

また、グラファイトは面内と面直方向に強い異方性を示すため、このような材料におけるフォノンの流体力学的熱輸送の有無を判断する基準を厳密に決定するための理論的研究も行った。その結果から、流体力学的熱輸送と弾道的熱輸送を区別するため、熱伝導率(κ)が弾道的熱コンダクタンス(Gb)よりも、温度上昇にともなって大きく増加することを流体力学的熱輸送が優勢であることの判断基準として提唱。天然グラファイトは、温度上昇とともにκ/Gbが単調に減少する一方で、同位体純化したグラファイトでは、30Kから増加傾向を示し、90K付近で2倍以上となり、150Kまで大幅に高い熱伝導を示すことを観測した。

研究グループは、熱を運ぶフォノンの流れを乱さないようグラファイト材料の高純度化や構造の改善を図ることによって、多種多様な電子機器の熱管理への利用が期待できるとしている。今回の研究成果は2023年4月19日、Nature Communicationsに掲載された。

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【記者発表】熱を運ぶ粒子「フォノン」の流れを理解し、放熱材料の性能を向上――半導体デバイスの排熱問題の解決に期待―― – 東京大学生産技術研究所

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