光で制御する再生可能な接着剤を開発――フッ素樹脂や水中での接着も可能 NIMS

物質・材料研究機構(NIMS)は2023年6月14日、接着と剥離を何度でも繰り返すことができ、かつ、必要な時には基材と接着剤を元の状態にリセットできる、再生可能な接着剤を開発した。フッ素樹脂や水中での接着など、一般的な接着剤が苦手とする基材や使用環境でも、強力な接着力とリサイクル性を発揮する。

環境への配慮と経済成長の両立への意識が高まっており、使用期間が終わった際に、プラスチックを含む構造部材を原材料ごとに分離/回収し、新たな部材としてリユース/リサイクルさせる「プラスチック資源循環」の実現が求められている。こうした要求に応える接合技術として、使用時には十分な接着力を発揮し、役目が終わると容易に剥離できる新たな接着方法が注目されている。

しかし、矛盾する要素が含まれている接着と剥離は、強力な接着力と容易な剥離の両立が困難だった。また、解体できたとしても、基材に接着剤が残ったり、基材が壊れたりすることもあり、マテリアル循環を妨げる要因になっていた。

研究チームは、天然由来のカフェ酸を導入したプレコート型接着剤を開発し、カフェ酸の特徴的な機能に注目した。研究では、市販の接着剤などに用いられるポリメタクリル酸エステルにカフェ酸ユニットを導入したプレコート型接着剤を合成し、波長365nmの紫外線をこの接着材料を塗布した基板の塗布面上部から照射した。すると、不溶のプレコート接着層が溶剤に形成される。

開発したカフェ酸を含むプレコート接着剤の化学構造と架橋/脱架橋反応の模式図

このプレコート接着層はベタつきもなく、暗所/室温で約2年間保管しても性能が劣化しなかった。今回のプレコート型接着剤は、光を塗面上部から照射するため、基材の制約を受けない。

さらに、剪断試験後の試料片を再び加熱すると、接着力は初期の接着強度と同等まで回復する。性能は、この操作を30回以上繰り返しても変化が見られなかった。しかし、波長254nmの紫外線を照射すると、架橋した部分が開裂し、元の直鎖状高分子に戻り、溶剤に溶けるようになる。

これにより、基材表面に残った接着層を完全に除去するだけでなく、接着剤そのものも回収できる。また、回収した接着剤と基材は、オリジナルと遜色なく再利用できる。さらに、磁性ナノ粒子をこの接着剤に加え、紫外線照射と誘導加熱を組み合わせた水中接着にも成功している。

カフェ酸を含むプレコート型接着剤
A:フッ素樹脂の接着 B:切断したシリコーンチューブの接合と修復後の流水試験。紫外線照射と誘導加熱を利用した水中接着の遠隔操作 C:磁性ナノ粒子を含む接着剤をポリプロピレン基板に塗布 D:紫外線照射によりプレコート化 E:誘導加熱することで基板を接着

光でリユースやリセットが制御できる再生可能な接着剤は、幅広い分野への適用が期待できる。また、水中リモート接着という新たな施工技術を通じて、次世代社会インフラロボットや遠隔医療などの実現にも貢献できる。今後は、電子機器や輸送機器、医療機器、インフラ補修などさまざまな用途に展開していく。

関連情報

再生可能な接着剤、光で制御 | NIMS

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