富士ソフト ソリューション事業本部 インフォメーションビジネス事業部 インフラソリューション部の高橋百合子さんは、大型プロジェクトを率いるリーダー。プライベートでは、7歳の息子さんの子育て中でもある。会社の柔軟な勤務制度を利用しながら、家族やママ友とも協力し合い、育児休業後もフルタイムで勤務。育児にも仕事にもポジティブに、生産性や効率を考えて時間を有効に活用する。(撮影:水戸秀一)
「変数名は何でもいいんですよね」
——現在携わっているお仕事について教えてください。
私が所属している部署は、業務アプリケーションを作る土台となるインフラの構築を専門としている部署です。現在は、金融機関向けインフラ構築案件に携わっています。私が専門としているネットワークを主軸にしながら、上流の要件定義等ではインフラ全体を見ています。私のこれまでの経験の中でも、かなり大きなプロジェクトで、忙しくはありますが、充実しています。
——もともと理系が得意だったのですか。
高校は普通科でしたし、理系が特に得意ということもありませんでした。ただ理系の学校に通っている人の話を聞いて、面白そうだなと思ったので情報系の専門学校に入りました。その時点では明確な将来像は描けていなかったので、半分憧れでよく分からないまま入ったというのが正直なところです。
——富士ソフトに入社して最初に携わった仕事は覚えていますか。
サービスプロバイダーや回線事業者が使う、ネットワーク機器の開発でした。私はプログラマーとして入社したのですが、学校を卒業後3年間は別の仕事に就いていたので、すっかり忘れていてゼロからのスタートでした。
コーディングをするときに「変数名は何でもいい」と言われたので、芸能人のイニシャルを変数名にして、みんなにびっくりされて……。そんな状態でしたね。
お化粧が薄い!
——前職は化粧品会社だったそうですね。
化粧品業界も好きだったので受けてみたら、たまたま受かったというような感じです。専門学校の先生もびっくりしていました。
デパートの化粧品売り場などでビューティーコンサルタントをしましたが、基本は営業ですから、コミュニケーション力などの基礎をたたき込まれました。今でもとても役立っていると思っています。
化粧品の仕事は楽しかったですし、好きだったのですが、学校で学んだ業界で仕事をしてみたいと思っていたので、3年を区切りに転職しました。
——かなり違う業界ですが、ギャップもあったのでは。
まず男性がすごく多いこと。化粧品会社だと、男性は100人中5人いたら多いくらいですが、こちらはまったく逆で、オフィスの雰囲気も全然違いました。
あとはみんなのお化粧が薄いこと。私が入社した1998年当時は、今以上にお化粧が薄かったので、私の中ではかなり強烈なギャップでしたね。
3カ月間で有給「ゼロ」
——お子さんができたとき、仕事を辞めることは考えましたか。
まったく考えませんでした。まずネットワークの技術が好きですし、働きやすい制度もあり、辞める理由がありませんでした。
——産休、育休後に復職したときは、大変だったのではないかと思います。
子どもの体調が悪いなどで、しょっちゅう保育園から呼び出されました。最初の1年は大きな病気をしたこともあって、3カ月間で有給を使い切ってしまいました。
たしかに大変ですが、それが当たり前と思えば、どうということはないと思います。これから育児を始める同僚や後輩にも、そう言って励ましています。
——職場の理解は得られましたか。
最初は、仕事を投げ出すと思われるのではないか、評価が下がるのではないかなどと、悩みました。でも比較的、同じような境遇の人が多い部署だったので、理解は得られやすかったと思います。育児と仕事を両立するアイデアも、みんなで共有していました。
ただ、ある程度責任ある仕事を任されるようになると、絶対に休めないという日もあるので、親に頼むとか、外部の機関を利用するとか、ママ友にお願いするとか、二重、三重に対策を考えるようにしていました。
子どもの夏休み期間は難関
——御社には在宅勤務の制度もあるそうですね。
はい。当初はかなり特殊な事情のある人だけの制度でしたが、子どもが3歳のころからすべての社員が使えるようになり、私は真っ先に利用を始めました。
今でも週に1日利用していますが、出社した日でも、どうしてもその日に終わらせなければならない仕事が残っていれば、家に帰ってから1時間だけ利用することもできるので、すごく助かっています。
フルフレックスタイム制でもあり、制度をうまく活用して、今までフルタイム勤務でやってこられました。
——2014年4月には小学校に入学されたそうですが、保育園のときとは違いますか。
宿題などもあるので、子どもに付きっきりになる時間をある程度確保しなければなりません。在学中に一度はPTAの役員をしなければならないルールなので、さっさと終わらせようと思って、最初に引き受けました。
長い夏休みがあることも大きな変化です。去年の夏は初めての夏休みだったので、どうなるかとドキドキしていましたが、学童保育を利用したり、ママ友と協力したりしながら、何とか乗りきりました。
——ご主人のサポートは。
とても協力的です。同じように働いているという意識を持ってくれているので、うまくバランスが取れていると思います。
それでも手が回らないので、週に1回、地域のシルバー人材センターの家事代行サービスを利用したり、ロボット掃除機を利用したり。部屋が散らかっていてイライラするより、使えるものは使った方がいいと思っています。
生産性を意識して仕事をする
——仕事をするうえで気をつけていることはありますか。
生産性はすごく意識しています。毎朝、その日にやることを書きだして、無駄なく動くように気をつけています。
技術的な面では、流用できるものはなるべく流用したり、分からないことがあれば別の部署からも情報をもらったりします。以前、後方支援部隊に所属していたことがあり、横のパイプを持てたことも、今の生産性につながっていると思います。
私は、出産の約3年後に役職が上がりました。限られた時間の中で成果をあげること、効率や生産性を意識していることを評価していただけたのかなと思っています。
——この仕事は女性に向いていると思いますか。
仕事の内容には男女差がないので、だれでも活躍できると思いますし、お客様にきちんと納品したときには、達成感もあります。
アウトプットをきれいに出すとか、人に分かりやすく伝えるとか、共有することとか、女性の方が得意のような気がするので、そういう面では女性に向いているといえるかもしれません。
基礎をしっかり身につけること
——今後は、どのようなことをしたいですか。
後方支援部隊に在籍していたときは、社内教育の講師をしたことがありましたが、人前で話すことができなくて、当時の生徒さんには申し訳なかったと思っています。でも今は教育をやってみたいと思っています。特に私が専門としているネットワークは技術が進歩しても、基本的な部分はそれほど変わっていないので、最先端の技術より、むしろ基礎の部分を教えてあげたいと考えています。
仕事と育児の両立については、保育園と小学校の1年目は仕事を捨てるくらいの覚悟でしたが、会社の制度や周りのサポートもあって、今まで続けることができました。今後、女性の技術者がもっと増えるように、自分の経験なども伝えていきたいと思います。
——これから技術職に就きたい方に、メッセージをお願いします。
基礎をしっかり身につけるということはとても重要です。それに尽きると思います。できれば若いうちに基礎を身につけておけば、あとは応用することも、新しい技術を学ぶこともできます。長く続けられる仕事だと思いますし、私も続けていこうと思っています。
フレックス、在宅勤務等、柔軟な働き方で活躍できる
富士ソフトは、独立系ソリューションベンダー。業務系、組み込み系ソフトウエア開発のほか、クラウド、ロボット、モバイルなど、ICTを支える技術を多く持っている。
同社の勤務形態は、コアタイムのない、フルフレックスタイム制度が基本。2013年には、技術職も含めた全社員を対象に在宅勤務制度を本格的に導入した。高橋さんのように、子どもの生活サイクルに合わせた短縮勤務で不足する時間は、在宅勤務で補えば、フルタイムで働くことが可能だ。現在までに在宅勤務の利用経験がある人は、延べ2000人ほど。管理本部 人事部 課長の益満博子氏は「経営者みずからが先頭に立って推進してくれたこともあって、浸透してきた」と語る。
産休はもちろん、育児や介護による休業は2年、その他出産前の母体保護休業制度など、法令を上回る制度を導入している。育児休業後の復職率は98.4%、2013年の実績では、育児休業を取得した65人のうち11人は男性だそうだ。
このような柔軟な働き方の背景には、各個人が時間の使い方に高い意識を持っていることがある。管理本部 人事部長の中村誠治氏は「そのプロジェクトで自分に割り当てられた工数を管理することは、入社したときからたたき込まれる。いかに有効に時間を使うかを考えて仕事をしていると思う」という。キャリアパスについても、社員一人一人が能力を発揮し、モチベーション高く仕事に臨めるよう、マネージメントだけでなく、専門技術を極める「スペシャリスト」という道も用意されている。
現在、社員のうち女性の割合は約20%。性別や境遇に関係なく、本当にパフォーマンスを出せる人を評価する風土を強みに、今後はもっと女性社員を増やしたいという。また女性社員のモチベーションアップや、復職時の不安を払拭するための制度や教育も、拡充させる考えだ。技術者集団である同社にとって、中核となるのは「人」。多様な働き方を推進し、だれもがそれぞれのキャリアで輝ける職場を目指す。