日東精工は77年の歴史を持ち、工業用ファスナー(ねじ製品)、自動組立機(ねじ締めロボット)、計測・検査装置を製造・販売している。
同社 産業事業部 製造部 組立課 組立二係で働く「ロボットレディ」こと畠中悠子さんは、入社4年目。ねじ締めロボットの電気配線や調整といった最終工程を担当する。常に笑顔の畠中さんだが、ヘルメットを被って工場に入ると、真剣味あふれたエンジニアの顔に。お客様の製造ラインに導入された際の作業効率を常に考えながらねじ締めロボットを組み立て、信頼してもらえる懐の深いエンジニアを目指しているという。(執筆:杉本 恭子、撮影:築地 久)
自動ねじ締めロボットの電気機器を組み立て、最終調整に当たる
――畠中さんの現在の仕事内容を紹介してください。
私が携わっているのは自動ねじ締めロボットです。作業者がボタンを1つ押すだけで、「締め付ける場所にロボットが移動し、供給されたねじをドライバが適切な力で締める」というプロセスを、自動的に行う機械です。
産機事業部の機械は、大きく標準機と特殊機に分かれます。標準機は基本的な機能があらかじめ搭載されている機械で、推力(押さえつける力)や、締める力など、部分的にカスタマイズして出荷します。
一方、特殊機はすべてお客様の要望を反映した仕様に沿ってゼロから作り上げるもので、組立ライン一式を丸ごと任せていただくことも多いです。
その中で私は、標準機の電気機器組立作業を担当しています。機械的に組み立てられたものに電気配線を施して、お客様の仕様どおりの動作をするようにシーケンスをデバッグし、出荷前に最終調整します。
機械製造の最後の工程として、「適正なトルクで締め付けられているか」「締め付け後に製品を傷つけていないか」など、仕様どおりの動作ができているかと全体を見ながら確認・調整しなければならない仕事です。
――初めての仕事はどのような内容だったか覚えていますか。
30台ほどの機械に安全シールを貼る仕事だったと思います。シールを貼るだけなのですが、何種類もあるシールをそれぞれ決められた場所に、緊張しながら貼った覚えがあります。
私の仕事はそこからスタートして、先輩に教えていただきながら、1つ1つできることを増やしてきました。
稼働現場を見て、お客様と直に触れ合える
――お客様先に出向いて搬入や改造工事も行うそうですね。
はい。出荷前にしっかりチェックしていても、お客様の設備とドッキングした際の信号のやり取りでうまくいかないケースや、稼働後にお客様から「もっとこうしたい」といったご要望が届くケースなど、何かと修正しなければならないことも多いです。
限られた時間とプレッシャーの中で対応するのは難しいですが、お客様や社内の設計担当者、営業担当者とも調整しながら、お客様のご要望を形にしていけるので、とてもやりがいがあります。
搬入作業を1人で担当できるようになったのは、2年目の終わりごろからです。休日に工場に行くことが多く、その場で判断する必要があるため、1人で担当を任されるようになるには経験が必要です。
先輩のアシスタントとして搬入作業に関わっていたときから、「いつか自分1人で対処できる力を身に付けることを意識するように」と先輩からアドバイスいただいていました。ある程度は自分1人で対応できるようになったとは思っていましたが、やはり初めて1人で搬入したときは「動かなかったらどうしよう」とすごく緊張しました。
――どのようなときにやりがいを感じますか。
搬入に行くと、自分が携わったねじ締めロボットが実際に稼働して、お客様の製品ができあがっていく過程を確認できます。
自分の目で現場を見て、お客さまの声を直接聞けるのは、この仕事ならではだと思います。お客様の作業がスムーズに回っているというお話を聞くと、喜びとやりがいを感じますね。
高専で人と違うことをしてみたかった
――中学校卒業後は、国立舞鶴工業高等専門学校の電気情報工学科に進まれたそうですね。
家族はみんな機械が苦手という家庭で育ちましたが、私は数学が得意だったこともあり、両親から理系への進学を勧められました。
私自身も普通の高校に行くより、「他の人とは違うことをしてみたい」と思っていましたし、就職時のサポートも魅力に感じて高専を選びました。
――現在の仕事の内容は、高専で学んだことの延長線上にあるのですか。
電気情報工学科というのは、主に情報処理の勉強をする学科です。
プログラミングのことは学びましたが、シーケンス回路のデバッグなどは、授業では1~2時間あったかどうか。「そういえば、こんなこともあったな」という程度でしたから、入社してすぐ仕事に使える知識はほとんどない状態。先輩に教えていただきながら、仕事を通じてやり方を学びましたね。
興味のあることはどんどんやってみる
――最近新たに学んだことはありますか。
昨年1年間、綾部工業研修所で機械系の勉強をしました。毎週1回、夜の2時間を使って学べる研修所で、機械系の勉強はまったく初めてでしたが、おもしろさを知ることができました。
研修所には当社からも毎年何人も通っています。いろいろな会社の方たちとの交流もできて、とても良かったと思っています。
お客様先に行くと、電気の知識だけでは足りないこともあります。機械的なことにも挑戦できたら、現場で対処できることも増えると思うので、これをきっかけに今後も機械系のことを勉強していきたいです。
――そのようなモチベーションやパワーの源泉はどこにあるのでしょう。
入社から4年目になりましたが、先輩方も「若いうちにミスをしておいた方がいい」と言ってくださるので、今のうちにいろいろなことを経験して、失敗もたくさんしておきたいという気持ちがあります。
そうした先輩方からの助言があったからか、今では問題が発生しても、「経験を積んで、成長できるチャンスだ」と思って取り組めるようになってきました。そんな姿勢で仕事と向き合っていけば、数年後、数十年後には、良い技術者になれるのではないかと考えています。
――ではこれからも挑戦は続きそうですね。
同じことを継続することもとても大事だと思いますが、それ一本で生きていけるという保証はないので、むしろいろいろなことを知りたいと思っています。
欲しがりな性格なのかもしれませんが、興味のあることはどんどんやってみて、自分に向いていることを探しているうちに、いろいろな可能性が見えてきたらいいですね。
お客様を不安にさせないように
――この仕事で女性に向いている点は。
組立には細かい作業も多いので、一般的に「手先が器用」といわれる女性向きの仕事なのかもしれません。ただ私自身は全然器用ではないので、女性の良さを生かせている自信はありません。
でも根気よく何かを作り上げるのは好きで、できるまでの過程を楽しんでいます。モノづくりではありませんが、プライベートではパズルを組み上げるのも大好き。始めると止まらなくなります。
――明らかに男性が多い職種だと思うのですが、女性だからこそ気を付けていることはありますか。
特に1人で搬入するときは、お客様に「この人で大丈夫か?」と不安を感じさせないように心掛けています。
特に初めのころは緊張も不安も大きかったですが、そこでおじけづいては「やっぱりこの人ではだめか」と思われてしまいます。日東精工の代表として搬入しているのですから、会社全体の信頼を失うことにもなりかねません。
何があってもどっしりと構えて、しっかりした態度で対応する。それで結果的にお客様の期待以上の仕事ができれば、より信頼していただける。常にそんな意識を持っています。
先輩に追いついて、追い越せるように
――これからどのような技術者を目指したいですか。
今は標準機の中でも、より汎用性の高いねじ締めロボットの組み立てに携わるようになりました。動きは比較的単純なのですが、自由度が高いため、自分の組む回路次第でどんな動きにもなってしまうところが難しいです。
標準機も多種多様な機械がありますから、いろいろな機械をマスターして、ゼロから作る特殊機にも対応できる技術者になりたいと思っています。
また技術力だけでなく、お客様のお話・意見を正しく理解する力や、正しく伝える説明力なども高めていきたいです。
そういう意味でも、やはり経験を積むことはとても大事。お客様先で不具合があっても、的確に、迅速にしっかり対処することでお客様の信頼を得られるようになっていきたいです。
――エンジニアを目指す女性にメッセージを。
今の時代は、男性も女性も関係なく活躍できる場が増えていると思います。そういう社会の中で、自分のやりたいことを見つけて、「男性に負けない」という気持ちでがんばっていけば、いろいろな可能性が見つかるのではないでしょうか。
私自身もその気持ちを忘れずに、先輩に追いついて、いつかは追い越せるようになりたいと思っています。
ロボットレディ・畠中悠子さんの一日
地元出身者9割。地域と人を大切に、従業員が輝ける職場に
1938年創立の日東精工は、京都府の日本海寄り、綾部市に本社を構える。繊維の町として栄えた綾部では、かつて数千人の女性が女工として働いていた。日東精工は、「男性が地元で働ける場所をつくろう」と地元の有志たちが立ち上げた会社だ。
1985年8月、東証1部に上場したが、「地域産業の振興と地域の雇用創出」を理念とする同社は、本社をこの地から動かすつもりはない。約600名の社員のうち9割以上が綾部・舞鶴・福知山という地元出身者で、地域活動にも率先して取り組む。企画室 室長 兼 監査部の荒賀誠部長は「地域の方々が活躍する場をつくっていくのが日東精工の1つの使命」と言う。
畠中さんも通った一般社団法人綾部工業研修所もその一例。1966年、地元の技術者のレベルアップを目的に、日東精工が中心となって立ち上げたものだ。現在は事務局を綾部商工会議所に置いているが、所長や講師は同社の社員が務めている。1年間、週1回2時間、高校の職業科卒業程度を目標に、電気科・機械科のそれぞれ20名程度が同研修所へ毎年通って学んでいる。
同社の女性社員は約15%。女性の育児休暇取得率は100%を維持している。また今年4月からは、育児短時間勤務の取得期間を小学3年生までに拡大した。荒賀氏は「結婚・出産で辞める人がほとんどなく、育児休暇を全員取得しているのは日東精工の1つの特徴」と胸を張る。
女性の技術者・技能者はまだ7名だが、女性の働き方についても踏み込んだ取り組みをしている。
例えば昨年度1年間、社長直轄で活動した「京☆おんな・なでしこプロジェクト」。プロジェクトメンバーは、各部門・各年齢層から選ばれた約10名の女性で、「女性が生き生き働き続けるような会社作り」を目的に活動し、今年2月に答申を提出。今年度からはその答申に基づき、具体的な活動を開始している。
「会社全体で変えるべきこと、女性自身が変えていかなければいけないことの両面から検討した。女性に優しいということは、男性にも働きやすい職場になる」と荒賀氏。地域を大切に、「人財」を大切に、男性も女性も輝ける職場を常に追求している。