- 2017-4-17
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- イットリウム系酸化物超電導線材, 成蹊大学, 昭和電線ケーブルシステム, 産業技術総合研究所, 超電導, 高温超電導体
昭和電線ケーブルシステムと産業技術総合研究所(産総研)と成蹊大学は2017年4月14日、超電導層の形成プロセスを改良した高温超電導体のイットリウム系酸化物超電導線材を用いて、世界最高となる1平方cm当たり400万Aという磁場中臨界電流密度を記録したと発表した。イットリウム系酸化物超電導線材が従来のビスマス系酸化物超電導線と比べて低コスト化できると見込まれていることから、高温超電導線材のコストに関する問題を解決する一助になるのではないかとうたっている。
高温超電導体は超電導が生じる温度が高く、安価で入手しやすい液体窒素を使って冷却できることから、今後さまざまな用途で利用できるのではないかと期待されている。ただし、周囲の磁場が強くなると超電導状態を維持して通電できる電流は減少してしまうため、磁場中でも高い性能を維持する線材が求められていた。
イットリウム系酸化物超伝導線材は、他の高温超電導材料と比べて磁場中の性能が高い。しかし、現状のコストでは高くついてしまうことから、産総研などの3者は低コスト化のために溶液塗布熱分解法を用いたプロセスを開発してきた。
溶液塗布熱分解法による線材としては優れた超電導特性を示すようになったものの、気相法などで製造した高性能線材と比較すると見劣りしていた。そこで産総研などの3者は今回、超電導特性を引き上げる手法を研究。1回当たりの塗布膜厚を数十nmに薄膜化することで人工ピン止め点を超微細化して、磁場中の特性を向上できることを突き止めた。人工ピン止め点を高濃度化するなどの改良を加えることで、液体窒素温度中の3テスラの磁場において磁場中臨界電流密度が1平方cm当たり400万Aを達成。臨界電流値は360Aを上回った。さらに実際の製造プロセスに適用できるかどうかを確認したところ、5mの線材を作製することに成功。長尺化の見通しも立ったとしている。
今後はモーターや発電機などの省エネ産業用機器、MRIや重粒子線加速器などの医療機器において利用する超電導磁石に、今回開発した技術を応用していく計画だ。