安定性の高い有機薄膜トランジスタの開発に成功――大型のフレキシブルデバイス製造に有望

米ジョージア工科大学電気電子工学科 Bernet Kippelen教授のグループは、フルオロポリマー(フッ素重合体)と2種類の金属酸化物層からなるナノラミネートから構成されるゲート誘電体を開発したと発表した。この新たなゲート誘電体は、周囲環境による損傷を受けやすい有機半導体を保護するように機能し、かつトランジスタとして極めて安定して動作させることも分かった。この研究成果は『Science Advances』に論文「Stable organic thin-film transistors」として2018年1月12日に掲載されている。

研究グループは、110℃以下で製造できる複雑なナノラミネートバリアを作り、それをトランジスタのゲート誘電体として使用した。バリアとなるナノラミネートのレイヤーは、フッ素樹脂の上に原子層堆積(ALD)により酸化アルミニウムと酸化ハフニウムの層それぞれ5層ずつを交互に30回積み重ねるマルチレイヤーとして形成した。このレイヤーの厚さは約50nmとなり、実質的に湿度の影響を受けず、沸点近くの熱湯に浸漬してもトランジスタを保護することが確認された。75度での環境下での数百時間の連続動作させ、これまで開発したいかなる有機トランジスタよりも安定していることを確認した。

研究チームは、ナノレイヤーの実験室的な製造に一般的なALD成膜技術を使用したが、この工程はスケーラブルだという。前駆体を供給する複数のノズルを備えたヘッドを利用するS-ALD(空間的ALD)という新しい工程を利用すれば、生産速度を加速させ、デバイスのサイズをより大きくすることができるとしている。

研究グループは、開発した有機半導体のキャリア移動度が1.6cm2 / Vsで、従来のものよりも高速ではないとし、より速いキャリア移度の実現を目指したいとしている。また、このナノレイヤーを光検出器などの異なるデバイスプラットフォームに使用し、長時間の屈曲試験などを継続して実施する予定だ。

有機薄膜トランジスタの用途として、iPhone Xなどの携帯デバイスに使用されている有機発光ディスプレイ(OLED)のピクセル制御トランジスタなどがある。また、フレキシブルなIoTデバイスをインクジェットプリンターを使って低コストで製造したり、従来技術では実現不可能な巨大なフレキシブルディスプレイへの応用も期待される。Kippelen教授は「本研究は、有機薄膜トランジスタに長年の課題であった安定性をもたらすターニングポイントとなります。今後、有機材料をベースとした印刷可能なフレキシブルデバイスの開発を促進するでしょう」とコメントしている。

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Nanostructured Gate Dielectric Boosts Stability of Organic Thin-Film Transistors

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