北海道大学は2018年5月31日、熊本大学と共同で、金属のナノサイズ空隙にナノ粒子を非接触で捕集し、ワンステップで配置/固定する新技術を開発したと発表した。
医薬品、化粧品、燃料電池の触媒など幅広く利用されているナノ粒子の中でも、有機分子で作ったナノ粒子は電気的、光学的に有用な機能があることから注目を集めている。しかしナノ粒子を有効に機能させるためには、作製したナノ粒子を微細な電気配線や光回路上にナノメートルの精度で配置する技術が必要となる。
これまで北海道大学電子科学研究所の笹木敬司教授らの研究グループは、微粒子に光を照射すると力(光圧)が発生し光の強い方向に引き寄せられるという現象を利用して、マイクロメートルサイズの粒子を光で操作する技術を開発してきた。しかし、さらに小さいナノメートルサイズの粒子では発生する光の力が極めて弱いため、捕集は困難とされてきた。
今回研究チームは、最先端微細加工技術によりナノサイズの金の空隙を作製した。この金ナノ空隙構造はレンズの働きを持っており、光を照射すると中心の10ナノメートルの空隙に光が集められ、ナノサイズの強力な光スポットが形成される。この強力な光スポットは、液体中に漂うナノ粒子を引き寄せるのに十分な光圧を発生させ、ナノ粒子をナノ空隙に非接触で捕集することに成功した。
加えて、光の照射で温度が上昇した金ナノ空隙構造は、光圧で捕集したナノ粒子をわずかに溶かして接着し固定したという。今回の実証実験では、熊本大学の深港豪准教授の研究グループが作製した、光る有機分子のナノ粒子をワンステップで捕集/配置/固定することに成功した。光る分子のナノ粒子を金属のナノ空隙に配置すると発光が増強される効果も報告されており、この手法によりナノサイズの強力な光源を開発できる。また、ナノ空隙を周期的に並べると光の波が揃う「超放射」が起こり、強力な発光源としての応用が期待できるという。
さらに分子の数を減らして1個の分子をナノ空隙に捕集/固定できれば、単一分子エレクトロニクス素子の作製や、分子の量子特性を利用した光量子情報処理/通信デバイスとしての応用も可能となる。極微量の分子やナノ粒子も捕集してナノ空隙の強力な光スポットで分析できるため、超高感度分子センサーとしての実用化も期待できるとしている。