どんなバネも作り上げる。創意工夫と蓄積されたノウハウで課題を解決――五光発條

日本には、約22万もの工場があります(総務省・経済産業省 平成28年経済センサス―活動調査 製造業に関する結果。従業者数4人以上の製造事業所数)。その99%以上が従業員数300人以下の中小企業。いわゆる「町工場」などが含まれます。本コラムでは、そんな町工場の持つ技術や取り組みについて、元機械設計エンジ二アの工業製造業系ライターがお伝えします。

今回紹介する五光発條は、さまざまなバネを製造する町工場です。他の会社が投げ出すような困難な案件であっても、全て引き受けて完成させられるほど、高い技術力と多くのノウハウを持っています。また、単に装置に使われるバネにとどまらず、その技術を用いた新たな製品の開発にも取り組んでいます。同社代表取締役の村井秀敏氏に、どんな案件も断らない理由や、日本の製造業に対する思いなどを伺いました。(執筆:馬場吉成)

代表インタビュー 五光発條 代表取締役 村井秀敏氏

得意とする技術や、技術的な強みは?

当社には昔から「お客様からの要望に対して基本的に断らない」という考え方が浸透しています。私自身、そうは言っていないし、創業者の父も「そんなことは言ったことがない」と言っているんですけどね。そんなわけで、他のバネ屋さんから「こんなもの、できるわけないだろう」と断られるようなものが、全部当社に持ち込まれるようになり、自然と受注が増えました。

依頼が来たら、「まずはどうやったらできるか」を考えます。例えば、材料屋さんと一緒に特別な材料を作る。設備屋さんと組んで、「これをやるためには、どういう機構があればできるのか」と相談する。機械屋さんとタイアップして、共同で開発していく。そういうことを続けてきた結果、丸め方、曲げ方、カットの仕方など、ほぼすべての加工に独自の工夫やノウハウが蓄積されてきました。

一見、同じバネに見えても、他社のバネは耐久性がなくて折れてしまうのに当社のバネだけは折れない。そんなことが普通にあります。「微差が大差を生む」と言われますが、小さな工夫の積み重ねが大きな差を生んでいて、そこが強みになっていると思います。

具体的に材料径で言うと、量産性のものだと0.025~4mmのものを扱っています。1000個くらいまでの試作対応なら8 mmくらいまでは対応できます。依頼いただければ、どんなバネでも実現に向けて検討します。



自社製品や何か独自の取り組みはありますか?

自社製品の開発にも力を入れていまして、自社技術を使って既存製品を高付加価値化すること、当社のブランド認知を広めることを目的としています。

今の一押しは富士山などの図案が入ったワインホルダー。ワインを横向きに固定して保存する道具です。2020年のオリンピックに向けて、外国人向けに日本のお土産として企画しました。当社の山梨工場の周りにはワインをつくるワイナリーが多いので、当社の技術を使って地域に貢献できることはないかと開発しているところです。

ワインホルダー。中央付近に富士山の図案が入っている

他にも、日本の町工場の持つ「技から生まれる美しさ」を大切にしたプロダクトブランド「Factionery」の商品として、「CLIP」と「CARDSTAND」の製作を担当しています。CLIPは第29回国際文具・紙製品展(ISOT)の日本文具大賞2018で優秀賞を受賞しました。

CLIP(http://www.factionery.jp/product/clip.html)。特殊なくぼみ形状を生かして、クリップ同士をつけたり外したりできる。つなげた後もそれぞれのクリップを別々に回転させることが可能。普通のクリップでは、書類をクリップでまとめた後にめくると折り跡がつくが、CLIPを使えば折り跡をつけずにめくることができる

CARDSTANDは、実は製作が非常に難しい商品です。バネを斜めに巻いてから熱処理後に平たくしています。まず「斜めに巻く」ということが難しくて簡単にはできません。さらに熱処理や平たくするといった工程も入ります。他社に依頼すると、図面を見たら悶絶して「絶対できない」という答えが返ってくるそうです。

CARDSTAND(http://www.factionery.jp/product/card-stand.html)。本体をひねると、上向き、垂直など、見やすい角度に変えられて使いやすい

どの機械を見ても、大抵は目に見えるところに付いているのはネジで、バネは裏方です。ですので、一般の人は「機械部品」と聞いて、バネよりもネジを思い浮かべることが多いでしょう。

そんな現状を変えるために、バネの重要性をもっと知ってもらいたい。このような思いで、地域貢献の一環として、一番近い小学校から工場見学を受け入れています。最近は高校生の修学旅行生が来ることもあります。

最近のバネ業界はどのような状況でしょうか?

今はどの業界も「部品レス」が進んでいます。代表的な製品で言うと、カメラがそうです。フィルムカメラからデジタルカメラになって、使われていたバネは従来の3分の1か、それ以下の数になりました。スマートフォンにも、バネはほとんど使われていません。他にも、電気自動車や自動運転が広まっていくと、どんどん自動車に使われる部品点数が少なくなっていくのではないかという危機感があります。

一方で、スマホなどに組み込まれるICチップなどの検査機器として使われるコンタクトプローブには、バネが多く使われています。製品自体は部品レスの傾向が続いてバネの需要は減っていますが、いくつかの主要部品を製造するプロセスでバネの需要は増えています。そうした追い風もありますが、全体感としては業界をとりまく環境は厳しいのが現状です。

そのような経営環境の変化に対応するために、長年のバネ製造で得た技術で何か違う付加価値を生み出そうと、自社製品の開発にも注力しています。諦めずにあがきながら、何か新しい価値を提供できたらいいなと考えています。また、異業種の企業とのコラボレーションなどで、新しいものを生み出せればいいなと期待しています。

エンジニアの方々に向けてメッセージをお願いします

当社には、難易度の高い案件をこなしてきたからこそ得られたノウハウと技術、最新鋭の設備があります。ですので、高難易度の設計を相談されると、「完成させてやろう」という気持ちが燃え上がります。

バネにはまだまだ可能性があります。駆動部・稼働部で誰もマネできないような技術を詰め込み、自分たちにしかできないモノを作っていきたいですね。

最近は海外の技術も高まってきていますが、今まで培ってきた技術を生かして、当社だからこそできるバネを作っていきたいと思っています。実現が難しそうなものでも、ぜひ1度、当社にご相談ください。

バネの新しい可能性を生み出す工場

一見すると、同じように見える小さなバネ。けれど実は同じように見えても、他ではマネができない多くのノウハウと技術が詰まったバネもあります。五光発條は、そんなマネができないバネをたくさん作り出している工場でした。

「できない」ではなく、「どうやればできるか」と創意工夫する。常にバネと向き合い、チャレンジした結果、ノウハウと技術が蓄積され、新たな受注が増えるという好循環が生まれました。歴史がありながら、今も最先端を突き進む。バネの新しい可能性をも作り出す町工場なのかもしれません。

工場基本情報

社名 五光発條株式会社
事業内容 各種バネの製造
所在地 神奈川県横浜市瀬谷区五貫目町25−16
TEL 045-921-0868
FAX 045-921-5980
お問い合わせフォーム  https://www.goko-spring.co.jp/contact/
従業員数 日本国内:50名 連結:400名
設立 1972年8月
設備リスト 日本国内 生産設備  85台体制
       MCS型、TM型、CL-10型、FL型等NCスプリングマシン
タイ     生産設備 170台体制
ベトナム   生産設備  80台体制

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