ものづくり工学マトリクスとものづくりドットコム

本記事は、製造業の課題解決と業務生産性の改善を支援するWebサイト「ものづくりドットコム」を運営する産業革新研究所の代表取締役であり技術士でもある熊坂治氏が、製造業の技術者向けに効果的な設計、開発プロセスについて解説する連載記事です。(執筆:熊坂治)

新しいものづくりプロセスの必要性

市場/顧客要求の多様化、IT技術の進展、アジア諸国の技術力向上、安全や環境に対する意識の高まりなどの社会情勢の変化によって、日本の製造業は、以前に増して付加価値の高い製品を効率的に開発設計、生産する必要に迫られています。そのために求められる技術は、メカトロニクスにソフトウェアを加えたインフォメカトロニクス、そこへさらにネットワークを絡ませるというように、次第に複雑化し、各業務の難度が上がっています。

過去の経験、固有技術知識だけで、これら複雑な要求に対する最適解を求めることは極めて難しく、図1のように「新しいものづくりプロセス」が必要となっています。この状況を打破するために、多種多様な技法、手法が提案されており、それらを総括する研究も報告されています。

図1:新しいものづくりプロセスの必要性

ものづくり工学マトリクス
しかし、技術者の期待が課題の解決であるにもかかわらず、目的に合った技法選択を誤ったり、手段であるはずの技法習得や活用が目的化されたりする事もありました。そこで私は、課題を索引とした手法の逆引きによる課題解決を下表1に示す「ものづくり工学マトリクス」として体系化し、その試みを各所で発表してきました。

表1:ものづくり工学マトリクス

ここではものづくりプロセスの下記4ステージに関する業務課題を14グループの解決技法群に整理しています。
(1)製品企画
(2)研究開発、設計
(3)生産技術、製造
(4)販売後の品質保証

表1において、ものづくり課題を縦軸に、解決技法を横軸に配置し、課題が技法の主目的である場合や大きな効果が期待できるセルに○、一次的な目的ではないが副次的な効果が見込まれるセルには△を記しています。

このマトリクス活用に当たっては、何らかの課題が生じた場合に、表1の課題欄で類似の項目を探し、そこから右にセルを追っていくと、必ず複数のマークに当たるので、課題に合わせてマーク列上の技法を組み合わせて解決策を検討します。

選択にあたっては、課題の個別特性に加えて、与えられた解決期間、組織の能力などを考慮する必要があります。

ものづくりドットコム
私が代表の産業革新研究所が運営するWebサイト「ものづくりドットコム」は、この「ものづくり工学マトリクス」をWeb形式に展開するというコンセプトで2012年に公開しました。「課題から解決方法を探す」ページで、選択した企業課題に対する有効な技法を優先順に示し、さらに選択した技法に関する解説や適用事例を掲載します。さらに記事を読んでも不明の点に関する質問を投稿すると、登録した各技法の専門家が回答する仕組みになっています。

掲載する3000件を超える記事は、主旨に共鳴した技術士を始めとする各分野の専門家が提供しており、現在では技術系のセミナーや教材の案内も加えて、2018年10月までに累計270万人以上の関係者に利用されています。

この連載も、ものづくりドットコムで紹介している内容を、fabcross for エンジニア向けに再編集してお届けする予定ですので、ご期待ください。

≪熊坂治プロフィール≫
1979年東北大学工学部を卒業後、中堅メーカーで30年にわたり基礎研究、製品開発/設計、生産技術、製造技術、品質技術、事業企画など広い業務を経験したのち2009年コンサルタントとして独立。2011年に株式会社産業革新研究所を設立し、翌年から製造業向け情報発信Webサイト「ものづくりドットコム」を公開。山梨学院大学現代ビジネス学部客員教授(技術経営論)、技術士(経営工学部門、総合技術監理部門)、技術経営修士(専門職)、工学博士(東京工業大学)。

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