広島大学は2018年12月28日、光子の相補的な2種類の偏光の同時測定において、測定誤差を生じさせる測定装置の間違いが両方とも起こるか、あるいはどちらか一方のみ起こるかの傾向の強さを表す量(測定誤差の相関)の測定に、同大大学院先端物質科学研究科の飯沼昌隆助教授とホフマンホルガ准教授らの研究グループが成功したと発表した。
量子力学では不確定性原理に基づき、相補的な2つの物理量は同時に正確な値が得られないとされている。両者を同時に測定すると必ず測定誤差を伴い、一方の物理量が正確であれば、もう一方の物理量が不確定になるから――つまり不確定性関係が成立するからだ。
相補的な2つの物理量の関係は数学的には表現されているが、物理的な関係やメカニズムはほとんど分かっていない。一方、実際に同時測定を行うと、統計的な関係を測定することが可能である。これには測定誤差の相関の影響が含まれるが、その値が既知であれば、測定間違いを含まない統計的な関係が獲得できる。
しかし、測定誤差の相関の評価を行えるかが問題だった。通常、測定誤差の評価では、測定前と測定後の情報を比較する。一方、測定誤差の相関を評価する場合には測定前の情報がない。そのため、実際に評価が可能だとは思われていなかった。
研究では、偏光のもつれ合った光子対を用い、相補的な2種類の偏光の同時測定の測定誤差を実験で調べた。通常、偏光のもつれ合った光子対のそれぞれの光子に対して1種類の偏光を正確に測定すると、両者の測定結果には非局所量子相関が現れる。代わりに2種類の偏光の同時測定を行うと、測定結果にはそれぞれの偏光、および偏光の積の3種類の量子相関が現れる。
測定結果は同時測定による間違いを含むため、量子相関は弱くなる。しかし、本来の量子相関の強さとの比から、逆に測定誤差と測定誤差の相関が評価できる。このとき同時測定装置が2つとも同じ性能であれば、これらは得られた比の平方根になる。
研究グループは、もつれ合った光子対のそれぞれの光子を同じ性能の2つの同時測定装置で測定し、両者の測定結果の量子相関を解析した。通常なら間違った分だけ量子相関の強さが弱くなるだけなので、比は常に正の実数となる。しかし、偏光の積の測定結果には逆の量子相関が現れ、比は負の実数となった。結果、測定誤差の相関は虚数になること、つまり古典統計的な関係とは異なることが分かった。
本研究結果は、相補的な2つの物理量の統計的な関係が測定前には虚数値で表され、測定後には実数値に変換されることを示す。このことから、相補的な物理量の間には、正確さの関係だけでなく、何らかの非古典的な関係が存在することが示唆される。研究チームは、研究の結果を相補的な2つの物理量の統計的性質の解析に応用することが、量子ビットとして使われる二準位系の量子現象の直感的な理解につながると期待している。