高エネルギー密度で長寿命――UCSD、全固体型リチウムイオン電池を開発

①正極複合層、固体電解質層、全シリコン負極から構成される全固体電池が開発された。②固体電解質層は不動態化し、安定な界面が形成される。③リチウムイオンが負極に移動すると、マイクロシリコンと反応して高密度Li-Si合金が生成する。④最終的に、機械的性質に優れるLi-Si合金電極が形成される。

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームが、マイクロサイズのシリコン粒子で構成される負極と、硫化物系固体電解質を用いたリチウムイオン電池を開発した。充電に伴って負極に高密度化したLi-Si合金粒子が形成され、合金化に伴う体積膨張を抑制するとともに、液体電解質の場合に生じた界面の不安定化を回避し、安全でエネルギー密度が高く充放電サイクル寿命の長いリチウムイオン電池を実現した。従来の電池における限界を克服でき、電力網におけるエネルギー貯蔵から電気自動車に至るまで、幅広い応用が期待される。研究成果が、2021年9月24日の『Science』誌に論文公開されている。

リチウムイオン電池は、携帯型電子デバイスから電気自動車まで幅広く活用されているが、特に長距離走行が可能な電気自動車に本格的に適用するには、黒鉛負極を用いた現状のリチウムイオン電池の3倍以上のエネルギー密度が必要だという見方もある。

負極活物質としてリチウム金属やその合金を用いたリチウム金属電極の理論容量は、黒鉛電極の約10倍と極めて大きく、大容量電池の有力候補として研究開発が進められている。しかしリチウム金属を負極に使うと、充放電サイクルに従って負極にリチウム金属が樹枝状に析出成長して、発火事故に至るという安全上の大きな課題がある。

また、リチウムと合金を形成するシリコンなど金属材料については、充放電時に体積の膨張収縮が大きく、微粉化したり、液体電解質との反応によって浸食されるなど、容量損失が大きく、充放電のサイクル寿命を維持できないという問題がある。

研究チームは、高エネルギー密度化に大きな可能性を秘めるシリコン系負極について、従来と異なる手法を採用することで、これらの問題を克服することに成功した。黒鉛および高分子バインダーを使わない全シリコン負極を目指して、通常のナノ粒子ではなく製造が容易で低コストのマイクロサイズのシリコン粒子を選び、スラリー化して負極を作成した。

そして液体電解質ではなく、硫化物ベースの固体電解質を用いて全固体電池を試作した。この電池では、充電に伴いリチウムイオンが正極から負極に移動し、マイクロシリコンと反応してLi-Si合金粒子を形成するが、合金粒子は高密度化して優れた機械的性質を有するLi-Si合金電極を形成し、膨張を抑制する。また、硫化物固体電解質層は不動態化して、負極との反応が防止され安定した界面が維持される。その結果、500回の充放電サイクルでも室温で80%の容量を維持することが実証された。つまり電池性能として優れた面積電流密度、広い作動温度範囲、高エネルギー密度、高い安全性が実現できることを確認した。

研究チームは、引き続き基礎的な研究を進める一方で、ライセンスを保有するベンチャー企業UNIGRIDを立上げるとともに、LG Energy Solutionと連携し、実用化を追求する予定だ。

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