電気自動車の普及とともにモータも進化。SRモータ・PMモータの性能向上に関する研究――明治大学 アドバンスト機器制御研究室

明治大学 理工学部 電気電子生命学科 アドバンスト機器制御研究室 三木一郎教授

磁束密度の単位にその名を残すニコラ・テスラが、初めて誘導モータを作ったのはおよそ140年前。固定子(ステータ)の作る回転磁界によって回転子(ロータ)に誘導電流を生じ、回転トルクを生むという基本原理は、高性能な現代のモータでも、変わることはない。特に交流電源を使うことで容易に回転磁場が得られる三相誘導モータは、多くの産業分野で活用されている。

明治大学 理工学部 電気電子生命学科の三木研究室は、その三相誘導モータ、そしてSRM(Switched Reluctance Motor:スイッチトリラクタンスモータ)と、PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor:永久磁石同期モータ)という3種類のモータを研究テーマとしてきた。学生の頃からこれまで、一貫して主に三相誘導モータの研究に取り組んでこられたという三木一郎教授に、お話を伺った。(執筆:後藤銀河、撮影:水戸秀一)

――研究テーマについて、ご紹介いただけますでしょうか。

[三木教授]三木研究室は、長年モータを中心にやってきました。一言でモータといっても大変多くの種類がありますが、その中でも三相誘導電動機というものを中心に研究を行ってきました。現在進めている研究テーマは、三相誘導電動機から離れて「SRM(スイッチトリラクタンスモータ)の低速域におけるセンサレス制御」と、PMSMの一種である「IPMSM(埋込磁石同期モータ)の高速、高効率化」の2つになります。最近まではSRMの振動・騒音の低減についても研究を行っていました。

研究の中心はSRMとPMSMという2種類のモータだ。

SRモータの短所である騒音や振動を低減する

――それぞれのテーマの概要はどのようなものでしょうか。

[三木教授]まずSRモータについてですが、このモータでは永久磁石は使わず鉄心とコイルだけで回転力を生み出していますから、過酷な環境でも使えるという特徴があります。構造も簡単で、材料もレアメタルなどは使わず、鉄と銅だけですから、安くできます。

ただ、SRモータにはその構造上、振動や騒音が大きいという問題があります。そのためか、あまり人気があるモータではありませんが、市場からはずっと無くならないと考えられます。これは量産化したときに安くなるとか、簡単にできるとか、先に挙げた良い点が無視できないからです。

用途としては、振動や騒音がそれほど問題にならない、バイクや掃除機などが多かったのですが、SRモータで電気自動車をやってみようと思い、企業の技術者の方の協力を得ながら取り組んだことがあります。

――SRモータを電気自動車に応用しようとされたわけですね。

[三木教授]数年前のことですが、それまで電気自動車に使われる例はほとんどなかったので、やってみようと思いました。SRモータをセンサレスで使ってみようといろいろ試行錯誤したのですが、その時は低速域がどうしても安定せず、うまく行きませんでした。

自動車への応用はそれで一旦見送りましたが、自動車に応用するかは別として、SRモータの研究は継続しています。欠点のひとつである騒音なども、次に示す研究のように、固定子の形状を工夫することで低減することに成功しています。

SRモータの固定子の応力分布図。SRモータでは固定子とその内側にある回転子間に発生するラジアル力が固定子を引っ張ること、および解放することにより固定子が変位、その結果騒音が生じる。

[三木教授]この図はU相を励磁したときに固定子に生じるストレスを示していて、赤い部分に強い応力が生じ、その変形が騒音や振動の原因になっています。このラジアル力(回転軸に垂直に働く力)を抑制することで固定子の変位を小さくすれば、それによって生じる振動や騒音も小さくなるはずです。

回転子の極付近や固定子の形状を変更することで、ラジアル力、変位を大幅に低減している。

[三木教授]これは回転子と固定子の形状を変更したものですが、ベースのSRモータに対して、最大ラジアル力は69%に減少、最大変位は51%となったにも関わらず、効率はほぼ変わりませんでした。

――まだまだ改良の余地があるということですね。SRモータの応用分野も広がる可能性があるとお考えですか?

[三木教授]もしセンサレスで振動や騒音もださない上手な制御ができれば、SRモータは今以上に広く普及するのではと考えています。現在はネオジム磁石(レアアースのネオジムなどを原料とする強力な永久磁石)なども価格が安定していますが、数年前のように中国からのネオジム供給が不安定になると、レアメタルを使わないSRモータが再び脚光を浴びることになるかもしれません。

自動車の電動化と共に急速に進化を遂げているPMモータ

電動車に使われる主流はIPMSM。自動車メーカーやサプライヤがその小型化、高性能化にしのぎを削っているという。

――もう一つのテーマは、IPMSMというモータですね。

[三木教授]時代と共に三相誘導モータも今でもいろいろな種類が登場していますが、EVやHEVなど自動車の電動化に伴い、強力なネオジム磁石を使ったPMSMという高性能モータが広く使われるようになりました。私の研究室ではPMSMでも特にIPMSMの高速、高効率化を目指した研究テーマに取り組んでいます。

――やはり車載を前提とすると、高速化や軽量化が大切ということでしょうか?

[三木教授]トヨタのプリウスに搭載されたIPMSMですが、第1世代はコア体積5.1L、最高回転数5600rpmに対しても第4世代ではコア体積2.2L、最高回転数1万7000rpmです。65キロの重さがあるモータが1万7000rpmで回っているんですよ。こうした高速化に伴って、ロータの構造も非常に複雑になっています。高速で回せれば同じ出力でも小型化できますから、自動車に載せるには高速化が重要なのです。

――高性能なIPMSMはネオジム磁石を使っているのですね。

[三木教授]ネオジムを使うと非常に強力な磁石ができますが、レアアースなので使用量を減らす研究が盛んに行われています。私のところでも、磁石量削減に有効なコンシクエントポール型PMモータについて研究してきました。このモータではトルクリプル(トルク脈動)が比較的大きいという課題があるため、これを改善する研究です。

理論の構築、シミュレーションによる設計検証の繰り返し

コンシクエントポール型PMSMの断面形状。回転子の突極形状を変えることでトルクリプルの低減に成功した。

[三木教授]これはモータの固定子とモータ体格に変更を加えない条件で、回転子構造の検討とシミュレーションを行いました。図の提案モデルのように突極の形状を非対称にし、極間角度を変えたところトルクリプルが変動することがわかりました。この角度が100度のとき、トルクリプル率が従来の111%から22%へと大幅に改善することがわかりました。

IPMSMでは、三相をd軸q軸という2軸に変換して制御するわけですが、電圧をかけて回転数を上げていくと、ある程度のところで誘導起電力と電源電圧が同じように釣り合ってしまい、それ以上は回らなくなります。さらに高速化するためには、d軸に負の電流を流して磁石からの磁束をなるべく抑えるようにする「弱め磁束制御」という制御を行います。

電磁界解析ソフトを使って、モータの高速高効率化を研究する。

[三木教授]ところが、d軸に負の電流を流すと、いろいろな損失が生じて効率は悪くなります。このd軸電流を小さく抑えつつ高速化できるよう、磁束の流れをうまく制御できるような回転子の構造を考えています。

写真は、電磁界解析ソフト「JMAG」を使っているところですが、シミュレーションができるソフトウェアを駆使しながら、磁束の流れを可視化し、優れた構造を考えています。

――シミュレータを使って解析や設計をされているのですね。

[三木教授]高性能化へのアプローチには、いろいろ切り口はあると思いますが、実際のところ、大学にはモータをいくつも作るような施設はありません。小さいモータを一つ作るだけでも、設計から始めて数百万円という費用が必要です。そのため、まずは理論をきちんと構築してシミュレータを使った検討を重ねることになります。そして、ある程度の成果が見込めるところでメーカーに依頼して、実物を完成させることになります。

研究室でゼロからモータを新設計するのは難しいですし、効率的でもありません。企業との共同研究では、既存のモータの構造、ディメンジョンを使い、こちらでシミュレーション行って全ての特性を把握します。それをベースにして構造を変えながら狙いの特性を出し、ベースとなったモータに比べてどれ位良くなったのかを見ています。

――研究成果はどれくらい対外発表されていますか?

[三木教授]少なくとも年2回は海外発表の場を持つようにしています。特にIEEE(米国電気電子学会)がスポンサーになっている会議では、論文がIEEE Xplore(IEEE発行ドキュメントの検索プラットフォーム)で参照されることも多く、研究者としてもメリットがあります。私のところでは博士課程の学生はもちろん、修士の学生でもできるだけ海外の学会で発表する機会を用意しています。

研究発表は研究者にとって大切な機会。可能な限り、研究室の学生にも海外での発表の機会を設けている。

――研究室の卒業生の進路は、電機メーカーが中心になりますか?

[三木教授]就職先はさまざまですが、最近は電気自動車関連の自動車メーカーや自動車部品メーカー、モータサプライヤなどが多いですね。他にもカメラメーカーや電力会社にも就職しています。

――最後に学生向けにメッセージをお願いします。

[三木教授]最近では大学院に進むような学生でも、研究が面白いという人が少なくなってきているように感じます。大学生活では学業以外の誘惑も多いですし、何かを犠牲にしないと研究のための時間は取れません。ですが、自分が研究したことがどこかで引用されたり、社会のどこかの技術に使われたりすると、とても大きなやりがいになると思います。

もちろんずっと大学に残って研究を続けられるような人はほんの一握りなので、就職が中心になるのは当然ですが、若い時には集中して勉強ができます。会社に入れば、研究以外のことをやらなければならなくなってきます。金銭的な面でアルバイトをせざるをえない学生も多いので大変だとは思いますが、学生のうちにできるだけ科学的なことに興味をもって関心を示してほしいと思います。

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ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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