AIや機械学習が制御設計を変える。制御と共に進化する次世代のMBDとは――MathWorks Japan 阿部悟氏

MathWorks Japan インダストリーマーケティング部部長 阿部悟氏


実機を仮想環境でモデル化し、シミュレーションして設計と検証を繰り返し、実装までを行う開発手法である「モデルベース開発(MBD:Model-Based Design)」の最新情報を紹介しています。

これまで、第1回「MBDの生まれた背景と広く普及した理由」、第2回「MBDの最新トレンド」と題し、MathWorks Japan インダストリーマーケティング部部長の阿部悟氏に、お話を伺ってきました。最終回である第3回は、「制御と共に進化する次世代のMBDとは」です。(執筆:後藤銀河、撮影:杉能信介)


――MBDに関する最新の技術動向を教えてください。

[阿部氏]これからは、IT/IoTを中心に進んでいる機械学習、ディープラーニングというData Analytics関連の技術が、MBDに融合されていくと考えています。これまでは、データとプログラムがあってアウトプットを出し、所望のアウトプットが得られるようなプログラムを設計するというプロセスでしたが、機械学習のプロセスではデータと所望のアウトプットをベースにモデル化して、それを実現するプログラムを得ます。これをMBDと組み合わせることが、次世代のMBDになるでしょう。

機械学習によるプロセスでは、データと所望のアウトプットからプログラムを導き出すことができる

AIや機械学習が制御設計のアプローチを変えていく

――――自動車などの開発にも機械学習が導入され、開発プロセスも変わっていくということでしょうか?

[阿部氏]これまでの設計アプローチは、所望の動きとデータを基にしてプログラムを作る、というものです。自動運転の領域で言えば、カメラやセンサーが捉えた他の車両や歩行者を正しく認識するというところに、ディープラーニングが使われています。これを入力として車両の挙動を制御することになりますから、これからは機械学習の結果として得られたものをベースに、どう動かすのかというプログラムを作ることになります。

これからのMBDでは、カメラやセンサーなど機械学習の結果を入力として利用する

[阿部氏]また、従来の制御開発と異なり、ディープラーニングの一部である強化学習を、自動車のさまざまな制御に適用するような試みもなされています。エンジニアは、これまでよりも広い視野で考える必要がある時代が来つつあると言えるでしょう。

MBDを使ってシステム設計をする開発者は、これまでより広い視点で全体設計を把握する必要がある

――従来の設計プロセスに関わっていたエンジニアも、これからは機械学習など新たな技術領域の知識が求められていくということでしょうか。

[阿部氏]自動車の開発エンジニアはデータサイエンティストではありませんから、あくまでも制御設計が専門領域です。認識率を高める部分はディープラーニングのアルゴリズムに任せておけば良くて、開発エンジニアにとって重要なのは信頼性の高いアルゴリズムを自分たちの開発の枠組みに取り入れられるかどうかです。

MATLAB/Simulinkは、モデリング、コード生成、検証といった基本となるワークフローやツール群が利用できるようになっています。今後は、データ分析(Data Analytics)や機械学習などの技術を利用して、データからより知見を得て活用すべきでしょう。

――――既に新しいアプローチに向けた取り組みが始まっているのでしょうか。

[阿部氏]自動車であれば、例えば自動車を走らせて計測したデータから、統計モデルを作り、そのモデルから車の状態を推定し、故障予知、故障予測を行うという実施例も出てきています。故障予知というと、第2回で紹介したベーカー・ヒューズのように、産業機械や設備など動作範囲が限定された条件下で使用されるような製品に適用された例はありましたが、これからは、さまざまな使用条件で使われような自動車などにも適用されていくとみています。

機械学習によるデータ分析により、MBDも大きく進化

[阿部氏]これまでは、要求仕様が経験値ベースの積み重ねとなり、最適化されていないことが多くありました。今後は、実験データや市場からのデータを紐解いて、知見を導出し、要求仕様にフィードバックをかけるというプロセスで、より短期間で、より良い製品を開発できるようになる。これが次世代のMBDを適用した開発プロセスであり、データから知見を引き出すことで製品の質がより高まり、あるべき姿になっていくと考えています。


阿部悟(MathWorks Japan インダストリーマーケティング部部長)
輸送機器制御システムの基礎研究や、エンジン、ボディ、シャシー電装製品や新規製品のビジネス開発を担当し、2012年より数学的計算ソフトウェアの開発を行うMathWorks Japanにて現職。マーケティング活動を通してMBDの推進に尽力している。

取材協力先

Mathworks

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ライタープロフィール
後藤 銀河
アメショーの銀河(♂)をこよなく愛すライター兼編集者。エンジニアのバックグラウンドを生かし、国内外のニュース記事を中心に誰が読んでもわかりやすい文章を書けるよう、日々奮闘中。


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